若手研究者支援セミナー「学振DC・PD申請書の書きセミナー2022 学振特別研究員の申請に向けて」を開催しました

12月19日に文学研究院研究推進委員会主催の若手研究者支援セミナー「学振DC・PD申請書の書き方セミナー2022 学振特別研究員の申請に向けて」をオンラインで開催しました。本セミナーは、学振DC・PD制度について初めて聞く方、聞いたことはあるが中身はあまり知らないという方向けに基本情報を提供するとともに、実際に採用された方の経験談を伺い、5月の申請に向けて準備を進める支援を行うことを目的としています。

映像・現代文化論研究室 中村三春教授

まずは研究支援専門部会長の中村三春教授より、学術振興会特別研究員の申請資格、所属機関、研究奨励金など制度の概要についてお話がありました。

鈴木山海さん(特別研究員PD)

話題提供者の一人目は、特別研究員PDの鈴木山海さん(平成30年度文学研究科・西洋史学専修修了、元専門研究員)です。鈴木さんの専門は17,18世紀のドイツの裁判制度で、現在東京大学大学院法学政治学研究科で研究を行っています。鈴木さんからは、受入研究者決定の経緯、評価書作成依頼の時期や方法、申請書執筆時のエピソード、特別研究員PDのメリットやデメリット等についてお話がありました。申請書執筆について、草稿段階での研究計画はそれまでの延長だったので、新規性を打ち出すことが最も大変だったと言います。PDでは、学位を取得した機関以外の機関に異動する必要がありますが、異動のメリットは、視野が広がって研究の豊かさが増すこと、新たな学会への参加を通じて隣接諸分野や他分野の研究者と交流することができることなどで、デメリットは、転居に際して一定の手続きや費用が必要になることだと話しました。

反田智之さん(特別研究員DC1)

話題提供者の二人目は、特別研究員DC1の反田智之さん(心理学研究室博士後期課程2年)です。反田さんからは、事務手続の重要事項と申請書作成スケジュール、特別研究員のメリット、採用後のアルバイト等についてお話がありました。反田さんは、自分の計画の具体性や先行研究の理解、執筆の速度を考慮して適切な時期から申請書執筆を開始することが望ましいとアドバイスしました。また、特別研究員に採用されれば研究に専念できる環境を得ることができ、経済的な心配がないことが心の余裕につながるので、特別研究員には、是非申請したほうが良いと話しました。採用後は、非常勤講師などの仕事を指導教員の許可を得て行っているものの、研究時間を圧迫しないようスケジュールを組むことを心がけているそうです。

このあと質疑応答が行われ、参加者からは「申請書を書くにあたって新規性を持たせることは重要だと思うが、実現可能性はどのように盛り込んだか?」、「どの程度専門的な内容を記載したか?」といった質問がありました。

続いて、研究支援専門部会の教員よりコメントがありました。

田村容子准教授(中国文化論研究室)
笹岡正俊教授(地域科学研究室)
近藤智彦准教授(哲学倫理学研究室)

田村准教授は、特別研究員DCの書類審査を行った経験があり、150件の書類のうち、自身の専門分野のものは1~2件のみだったそうです。他分野の研究者が審査することも視野に入れ、所属研究室以外の研究者や院生の意見も聞くとよいこと、また申請書は、分かりやすさを重視しつつ、数ある申請書の中で自分の研究が際立つように、研究の深さや意義が伝わる書類に仕上げていくことが重要だとアドバイスしました。

笹岡教授からは、特別研究員DC2と海外特別研究員に採用された自身の経験をもとに、採択される研究計画書を書くために必要な3つの基本姿勢についてお話がありました。1つ目は早くから準備を始め、書く、見てもらう、修正するというサイクルを何度も繰り返すこと、2つ目は研究の目的を中心に据えて全体を練ること、3つ目は科学的な厳密性を追求し過ぎず、分かりやすさを大切にすることです。

近藤准教授は、PDの評価書を作成した自身の経験から、受入研究者に評価書を依頼するタイミングは早い方が望ましいとアドバイスしました。申請書を書くにあたって、採択されるため正確な記述や自分の信条を犠牲にしなければならないのではないかという精神的負担を感じるかもしれないが、無理に流行に乗ったりする必要はなく、「何故その作品を研究テーマに選んだのか」といった当然の問いを大切にし、そのような問い直しのためには隣接分野の方に相談するのが有用であることを話しました。

次に、研究推進室の澤田URAから、学内の申請書提出期限についての注意事項、若手支援メーリングリストへの登録方法、若手研究者支援セミナーの開催時期、共生の人文学、採択済申請書の閲覧方法(文学院生のみ)等についての説明がありました。

最後に中村教授より、文学院で行われる研究は個人で行うものも多いが、学会や研究会に足を運び、他機関の研究者と交流を持って視野を広げることの大切さについてお話がありました。また、自分の研究を楽しみつつ、研究を通してどのように自己表現ができるのかを考え、社会や文化への貢献に寄与するという姿勢を申請書で大いにアピールしてくださいと参加者に向けてメッセージが送られました。

 

アンケートに寄せられた質問への回答

アンケートの自由筆記欄に記載いただいた質問について、セミナーの話題提供者、研究支援専門部会教員、研究推進室からの回答を以下に記します。

Q1DC1に申請予定の者です。業績はどの程度重要ですか?
A1-1業績はあるに越したことはありませんが、DC1でたくさんの業績のある人は少ないので、その時点で前向きな姿勢が見えればそれでよいでしょう。
A1-2DCの審査では業績よりも研究計画の将来性の方が重視される傾向にあります。研究の意義や実現に向けた計画が、客観的に伝わるように作成するとよいでしょう。

Tips💡
以前の申請書には業績を羅列する「研究成果等」欄がありましたが、2020年度採用分から新たに「研究遂行能力」欄が設けられ、論文や学会発表等のリストを記載する旧様式から、研究課題の実行可能性を説明する記述の中で、その根拠となる研究成果や業績、文献等の主要なものを適宜引用して記載する新様式になりました。2022年度採用分では、「研究遂行力の自己分析」欄となり、『本申請書記載の研究計画を含め、当該分野における(1)「研究に関する自身の強み」及び(2)「今後研究者として更なる発展のため必要と考えている要素」のそれぞれについて、これまで携わった研究活動における経験などを踏まえ、具体的に記入してください。』(令和4 年度採用分 特別研究員-DC 申請書から引用抜粋)となっています。

Q2学振特別研究員DCの申請には、年齢制限はありますか?
A22014年度採用分からはありません。『社会人を経て大学院博士課程に入学する者が増加し、研究者へのキャリアパスが多様化していることなどを背景として、平成26年度採用分より、年齢制限を廃止しました。』(JSPS公式サイトから抜粋引用:https://www.jsps.go.jp/j-pd/pd_gaiyo.html

Q3審査員はおおまかにどんな分野の方なのか知りたいです。
A3過去5年間に審査員を務めた研究者リストが、担当区分(大)に任期終了時点での所属と併せて公開されています。審査員の先生方についてはresearchmap(https://researchmap.jp/)や科研費データベース(https://nrid.nii.ac.jp/ja/index/)で調べると、研究キーワードや業績からどの書面審査セット(https://www.jsps.go.jp/j-pd/pd_sinsa-set.html)を担当されていたのか、おおよその見当がつくと思いますのでぜひチェックしてみてください。

Q4研究分野が複数審査区分で提出可能な場合、審査区分はどのように選べばよいですか。
A4-1一概には言えません。自分の専門との重なりと、通りやすさなどを勘案する必要があります。3月のセミナーの個別相談会でご相談ください。
A4-2選んだ受入研究者・研究室の専門分野が、審査区分の判断基準になるかと思います。

Tips💡
過去に採択された学生さんの中には、一見すると研究分野と全く関係がない審査区分を選んで研究課題と意義を上手く審査区分に結びつけることで新規性を見出し採択された方もいます。3月の相談会では、審査セットの選び方についての話題提供をオンデマンドで視聴できるようにする予定です。

Q5海外で研究を行う際に重要なことは何ですか。
A5すでに自力で資金を獲得している点が、受入決定の際に大きなメリットとなると思います。また、英語や当地の言語での業績があると、スムーズに受入許可が下りるようです。

Tips💡
過去に開催した海外での研究をテーマにしたセミナーのWEB開催報告記事もご参照ください。
2020年10月28日開催  https://www.let.hokudai.ac.jp/news/16304
2018年9月28日開催 https://www.let.hokudai.ac.jp/news/5550
2015年12月1日開催 https://www.let.hokudai.ac.jp/news/4579

Q6(鈴木さんへの質問)ご自身の研究(歴史)と法学にどんな関係がありますか?専門分野としては一緒なのでしょうか?
A6書面審査区分は「歴史学、考古学、博物館学、およびその関連分野」です。受入機関は法学政治学研究科ではありますが、歴史学分野での申請になりました。区分とは別に、専門分野としては法制史の要素も多く含み、歴史学と法学の双方にまたがる研究になります。

なお、これまで開催したセミナーでも同様のアドバイスや質問がありましたので、過去開催したセミナーの開催報告も併せてご参照ください。

より具体的な書き方や申請に関して知りたい方は、3月に開催する個別相談会へご参加ください。