文学部への誘い

北海道大学文学部長・文学院長・文学研究院長
山本 文彦 やまもと ふみひこ

文学部で行われている授業の学問分野を一言で表現するならば、「人文学」という言葉が相応しいだろうと思います。事実、北大の文学部では、人文科学科という一つの学科しかありません。それでは「人文学とは何か」ですが、これについては古今を通じてさまざまな説明の仕方があります。

人文学、英語ではhumanitiesですが、このhumanitiesは「人間性」や「人間」を指すhumanityの複数形です。漢字の表記でも同じですが、この言葉から類推すると、人文学というのは、「人間に関係する学問」と言うことができます。この人文学は歴史的にはイタリア・ルネサンスにおいて興隆した「フマニタス研究(studia humanitatis) 」に遡ることができ、このフマニタス研究は、古代ギリシア・ローマの哲学・文学などの原典研究を通じて幅広い教養を身につけ、人間性を回復することを目的としていました。そもそもこのラテン語のフマニタス(humanitas)は、「人間性」という意味とともに「教養」という意味もあり、教養と人間性が不可分な関係にあることが分かります。

「人文学とは何か」に話を戻し、この歴史的な経緯から考えますと、人文学とは「人間性を陶冶する教養を身につける学問」と言うことができるように思います。文学部で学ぶ人文学は、私たちが人間として豊かに生きていくために必要な学問であり、人文学を学ぶことは、人間として豊かに生きる教養を身につけることと言うことができます。しかしそれは単にさまざまな知識を詰め込むことを意味してはいません。人文学は、もちろん古今東西のさまざまな知識などを対象としていますが、自分で考えることができ、自分の言葉で表現することができ、自ら行動することができる人間となることを目指しています。

昨今、実学志向が強くなりつつあり、就職や資格を重視する人たちは、人文学という学問にあまり魅力を感じないかもしれません。しかし人間として生きていくための学問として、人文学は最も重要な学問の一つだと思います。そのため文学部で学ぶ人文学は、卒業した後も学び続けることを必要としています。大学では一生学び続けることができる学問的な基礎を身につけ、卒業後も一人一人が学び続けることが大切です。豊かな教養を身につけた者が、私たちの社会を担い、また次の世代へと文化を継承していくのです。