若手研究者支援セミナー2020「それを知れば、海外研究の可能性大」開催されました

10月28日(水)に海外での研究活動を始めるためのセミナーをZoom開催しました。今回のセミナーは、海外の研究機関や大学で研究してみたいと考えている方や学位取得後は海外でキャリアを積みたいと思っている大学院生、海外でのフィールドワークを含む研究をしているポスドクや若手教員といった若手研究者向けに企画しました。

セミナーでは、主に西欧や北米、オセアニアで研究経験がある話題提供者3名の先生から
〇海外での研修ではこんなことができる
〇海外で研究するためにはこれが大事
〇海外渡航情報の確認や渡航先との事前準備のためのツールとスキル
について、話題提供いただきました。
研究推進室からは海外での研究に活用できる若手研究者向けの助成金や外部資金、奨学金について情報提供を行いました。

当日は、文学研究科・文学院・文学部所属の大学院生、学部生、研究生、専門研究員、学振PD特別研究員の方に加え低温科学研究所からも学術研究員の方から申込があり、総勢15名が参加しました。

はじめに、司会の研究推進委員会研究支援専門部会長・中村先生からセミナーの趣旨と話題提供者の紹介がありました。続いて、話題提供者3名から学生時代、ポスドク時代、そして現在に至るまでの海外での経験談を分かりやすいスライドとともにお話しいただきました。研究推進室からの情報提供をはさみ、質疑応答では司会の中村先生や参加者から寄せられたいろいろな質問に、より具体的な事例を織り交ぜた回答をいただきました。

最初の話題提供は、小川先生から「映画と演劇の在外研修@ヨーロッパ」について具体的な助成金や小川先生が実際に毎年参加された映画祭の情報とともに豊富な画像と楽しい経験談をご紹介いただきました。

      

まず初めに、修士課程のころは応募できる外部資金や研究費が少なく資金的に難しい中、欧州開催の映画祭で学生向け支援制度があることを知り、その援助を受けることで映画祭への参加が可能になったことを具体的な援助内容と一緒に紹介されました。また、同じ制度を利用していた各国の大学院生と交流を続け、現在では大学やフィルム・アーカイブなどで働いている同世代の人たちがいること、当時積極的に交流を心掛けることで本物の研究者に会えたことが貴重な経験になったことをお話されました。博士課程では応募できる助成金が増え、映画祭への参加だけではなくProceedingsや論文集として出版される国際学会発表を組み合わせることで1度の渡航でフィールドワークに加え外国語での論文発表につながるチャンスをえることができる、ということもアドバイスされました。また、助成金で海外から研究者を招へいする際は研究交流だけではなく研究者と過ごすオフの時間も大切にすること、映像作品を上映する企画では関連協会に働きかけて特集上映会にすること、劇場では役者やアーキビストと積極的に交流すること、更に知り合うだけではなく交流を継続させることが大事であることを当時の写真と共に話されました。
最後に、海外渡航ができないため現地でのフィールドワークが難しい状況でも、いつも通り研究を続けること、交通費や滞在費が不要になるオンライン開催イベントは普段であればなかなか時間をとってもらえない人たちと話す貴重な機会になることを強調されました。

   

小川佐和子先生(映像・現代文化論研究室 准教授)が実際に訪れた劇場と開催された上映会

2人目の話題提供は「海外で研究するための鍵:ドイツ・オランダでの経験から」と題し、竹澤先生より学部3年生から現在までのご経験を思わず笑ってしまう数々のエピソードを交えてお話いただきました。

 

竹澤正哲先生(行動科学研究室 准教授)と3つのポイント

竹澤先生はまず、研究費の獲得額や経歴だけを
見れば、順風満帆な研究者経歴に見えるかも
しれないけれど、その実いろいろと波瀾万丈
だった、ということを導入に、研究者にとって
大事な3つのポイントについて分かりやすい
ご自身のエピソードとともに話を進めました。

ポイントの1つ目は「一歩を踏み出さなければ何も始まらない」、竹澤先生が博士課程3年の終わり2000年1月のエピソードが紹介されました。当時たまたま興味があった論文の執筆者がポスドクを探していることを知り、ツテもなく海外ポスドクに応募したことがある知人もいない中、更には海外でポスドクをすると日本で就職することが困難な時代に、”たとえ不採用でも失うものはない”と応募したところ渡航費は先方負担でベルリンでの面接に呼ばれたという体験談でした。その後、ベルリンで面接を受けた研究所で無事採用され、欧米でのジョブ・マーケットにも慣れてきたころに今度はオランダの大学でAssistant Professorに採用されたことから“なぜ採用されたのか”を分析した結果、2つめのポイント「ニッチを探せ」につながります。ドイツ・オランダでの採用の決定打は、先方が欲しがっていた人材像に自分があてはまっていたことが大きく、人材を探す側は時代の流れや状況が求める様々な要因を勘案してマッチングしており、応募する側も時代が何を求めていて、かつ自分にしかないものは何か、それを冷静に分析することが自分と適合するニッチを見つけることにつながると説明されました。3つ目のポイント「競争的研究資金の申請書は審査者の視点から書く」ことについては次のように述べました。重要な点は”自分がやりたい研究”イコール“評価される研究”とは限らない、ということ。評価する際の基準は1つではなく、審査者が単純に論文数で順位をつけて機械的に採択していることはなく、”自分がこんなに意味のある研究をしているのに、どうして分かってもらえないのか”という発想は百害あって一利なし、審査者がどのような基準で申請書を採点しているのか過去に採択された研究や審査者について調べることが必要なことを強く示しました。科研費や学振は採択された研究や審査者について情報が公開されています。やりたい研究をすることと、道具である研究費を獲得することは別次元の話であり割り切って考える、ということです。最後に、指導教員も身近な人も、自分自身でさえ数年以上先の将来を予測することはできないので”人がなんと言おうが、とにかく一歩を踏み出すこと”と話を締められました。

3人目は、現在、特にニュージーランドの研究者と共同研究を行っている池田先生から現在のコロナ禍における状況と、そんな中でもできること、について多くのスライドとともに「コロナ禍における海外研修 情報収集とリスクマネージメント」と題してお話しいただきました。

    

池田透先生(地域科学研究室 教授)による分かりやすいスライド

コロナ禍で海外研修が困難な現在、海外に出ることが厳しい状況で今何ができるのか。まずはコロナ禍に限らず、海外研修における事前準備の重要性について詳しい説明をいただきました。事前の情報収集と危機管理対策について、海外渡航や海外危険地域に関するさまざまな公式ウェブサイトのほか、北大の情報サイトや“北大の留学情報”、“留学ガイド”、“国際交流課”でのサポートなど北大生の積極的な活用を促しました。
次に留学や海外での研究を計画する際の留意点として、“明確な目標”となる留学後や研究達成後のビジョンを持つことや自分の人生設計についてもしっかりと考えておくこと、留学先や海外研究拠点となる現地での安全な生活の確保の必要性について自身のアラスカでのフィールドワーク経験を例に話されました。アラスカではほとんど人と話さず自然の中で研究していた期間でも、研究活動を通して国際的な感覚や海外研究ネットワーク構築の重要性を学ぶことができたことを紹介しました。
そして現在の海外での状況については、池田先生ご自身も入国許可が下りないため現地での研究・調査ができずにいるニュージーランドを例に解説いただきました。ニュージーランドは現在、自国民と外交官以外の入国を制限しています。ニュージーランドの感染症対策がうまく機能していても、感染症の蔓延には現地の風習や文化が影響を与えるため例え他の国が同じ感染症対策をとってもニュージーランドと同じようにうまく機能してこの状況がすぐに改善する可能性は低い、ということです。そういった状況でできることは、今後の海外展開の下地を作ることであり、学会やイベントがオンラインで開催され参加するためのハードルが低いこの状況は海外とのネットワーク作りに好都合であることを話しました。また、文学研究院の学生支援として今年度の“共生の人文学”では旅費支援、校閲費支援に加えオンラインで開催される学会の参加費支援があることを紹介しました。
最後に、海外ネットワークは自分自身の研究だけではなく社会貢献にもなりうること、海外研修では日本とは全く異なる経験ができる利点があること、そして現地に行けない状況下においても海外の学会やセミナーに積極的に参加するなどチャンスを活用して自分の可能性を広げてほしい、と語りました。

質疑応答では、いろいろな質問が寄せられ話題提供の先生から回答をいただきました。
まず、小川先生が活用された映画祭での学生支援制度であるコレギウム制度についてより詳しい説明がありました。同制度では食費を含む滞在費と参加費がサポートされる代わりに支援を受けた学生は映画祭の上映と同時に行われる講義を受け、最後に英語でレポートを提出することが課せられていること、昔は日本からの大学院生の参加が多かったこと、今は日本人学生の参加が以前よりも減っているため、積極的に活用してほしい、ということです。
次に、科研費や学振の審査者である研究者について学生のころには気づかない点、研究者は個別の研究の“技術屋”ではなく、普段から自身が行っている研究にどんな意味があるのかを考えて専門分野外の人にも分かるように説明することを大事にしている、という指摘をいただきました。また、審査者の視点から書くとよいこと、審査者が知りたい具体的なポイントを書くこと、いかに先進的なことをしているか書きがちだが他分野の人にも分かるように書くことが大事であること、更には数をこなして申請書を書く経験を積むこと、不採択でもめげずにどんどん申請しスキルを身に着けること、などのコメントをいただきました。専門外の人にも分かるように書くためのコツとしては、なるべく自分の専門とは異なる分野の先輩や同級生に読んでもらい不明点を明確にすることや研究について全く知らない人に見てもらい、疲れた審査員を楽しませるような物語として書くようにする、というアドバイスもありました。
海外研修によってどのような変化があるのか、若いうちに海外へ行った方がよいと言われるが自身の経験に照らし合わせてどう変化があったのか、という質問に対しては小川先生からは「海外の人から日本の映画について聞かれるので、海外の人との交流では日本映画の知識も必要であることに気づいたこと」、竹澤先生からは「価値観の違いを体験できる。特に日本やアジアでは少ないが北米や欧州では多い難易度が高い挑戦に対してネガティブなことは言わずポジティブなことを言って励ます、とにかくまずはやってみる、を実践しており“ほめる”社会的な効用を実感できたこと」という答えをいただきました。

参加者からは、「消極的になっていたところ、先生方のお話をお聞きして、とても勇気づけられました。」「大変勉強になりました。」「研究室の学生さんにも展開しようと思います。」「面白いお話ありがとうございました。」「新たな刺激を受け、頑張り続ける力を頂きました。」「この機会を通じて自分の海外研究の可能性を改めて探ることができてよかったです。」といった感想が寄せられました。
文学研究院研究推進委員会では、今後も若手研究者向けに企画セミナーを開催します。興味のあるテーマがありましたら、ぜひご参加ください。