若手研究者支援セミナー2019「博士論文のその先へ -専門書出版への橋渡し-」開催されました

10月28日(月)に文学研究院研究推進委員会主催の若手研究者支援セミナー「博士論文のその先へ-専門書出版への橋渡し-」が開催されました。

本セミナーは、アカデミック・ポストへ就くことを目標とする若手研究者に、自著の出版について、その心構えからノウハウ、出版助成の状況など、書籍出版の見取り図が描けるような情報を提供し、自身のキャリアプランの中に「出版」を組み込んで日々の研究に取り組めるよう支援することを目的として企画しました。

2013年と2016年の計2回、学術図書出版編として同様の趣旨でセミナーを行い、いずれも20名を超える参加者で好評を博しており、今回は3回目の開催となります。櫻井義秀先生(社会学研究室・教授/北大出版会理事長)のほか、小川佐和子先生(映像・現代文化論研究室・准教授)と山口未花子先生(文化人類学研究室・准教授)の3名の先生方に話題を提供していただきました。

まず始めに、司会の大沼進先生(行動科学研究室・教授/研究推進委員会研究支援専門部会長)から話題提供者の紹介と本セミナーの概要について説明がありました。その後、3名の話題提供者による話と貞許礼子URA(研究推進室)からの出版助成情報提供、参加者との質疑応答に続き、中村三春先生(映像・現代文化論研究室・教授/研究推進委員)より総括コメントをいただきました。

セミナーの概要を説明する大沼進先生(行動科学研究室)

話題提供者の一人目、北大出版会理事長の櫻井先生は、博士論文の出版の大まかな流れと昨今の出版事情、出版ノウハウについて話をしました。櫻井先生は、まず日本の出版産業がおかれている状況を分かりやすいグラフを用いながら解説しました。本や雑誌だけではなく新聞も含めて右肩下がりの産業であるという厳しい現状を紹介した上で、そんな状況の中でも売れる本について様々な例を示しながら説明しました。具体的には、書籍が書店へ並ぶまでの流れや大学図書館および学生の図書購入費用の減少、実際に必要となる出版コスト、出版部数と書店での取り扱い量についてスライドを用いて話しました。特に、博士論文での研究成果を出版した書籍は、一番購買層となりうる研究者には献本してしまい購入してもらえる機会が減ること、そのためにも異なる分野の専門家や一般の人にいかに購入してもらえるようにするかが重要であることをアドバイスしました。

櫻井義秀先生(社会学研究室)

続いて初期の映画研究が専門の小川先生からは、「博士論文を研究書として出版すること-『映画の胎動:一九一〇年代の比較映画史』(人文書院、2016年)を例に-」と題して、自身の経験をもとにどのように博士論文の研究成果を1冊の本にまとめ、出版したのか、について話題が提供されました。就職後はすぐに大学の業務で忙しくなり書籍化できないままになるケースが多いため、内容が新鮮なうちに出版したいという希望があったこと、博士論文の成果を出版することで一つの区切りとなり新しいテーマへと移行しやすくなること、修正や追加は始めたらきりがないこと、について話しました。そんな中で出版に役に立ったこととして、非常勤講師で講義をした際に研究内容についてほぼ知識がない学生に分かりやすく書き下す作業をしたこと、専門外の研究会などに参加して専門の異なる第三者、一流の研究者に自身の研究の面白さを理解してもらえるようにすることが役に立ったことを経験談を交えて紹介しました。

小川佐和子先生(映像・現代文化論研究室)

話題提供の最後は、山口先生から「博士論文が本になるために必要だったいくつかのこと」と題し、文化人類学という分野特有の事情を交えながら出版化においてどういった点が特に重要だったか、について分かりやすい説明がありました。具体的には、タイトルは販売数につながること、値段を抑えるためにハードカバーではなくソフトカバーにすること、人目を引く魅力的な装丁にすること、更に読んでもらうための工夫として書評を書いてもらうこととイベントを開催することが大事だったことが話されました。また、それに加えて採択率の高い助成金や出版しやすい出版社を探すことの重要性、何よりも「よい編集者」と出会うことが大事であること、そして「運」を味方につけることも才能のうちであることなどについて話しました。

山口未花子先生(文化人類学研究室)

続いて研究推進室の貞許URAより、では実際にどういった出版助成金があるのかについての情報提供がありました。また、助成金へ応募する際に大切なことととして、申請に必要な書類を確認することに加え、それらの書類を入手するために時間がどれだけ必要なのかを助成金の締切に間に合うよう考慮することが求められることが説明されました。

貞許礼子URA(研究推進室)

最後に、研究推進委員の中村先生より、出版にいたるまでの道のりだけではなく研究者として人とのつきあいや人脈作りが良い研究をすることと同じくらい大切であり、学会やシンポジウムに参加した時は懇親会に積極的に参加しさまざまな人と知り合うことが重要である、また何よりも、よい研究だから出版するのであって、まずはよい研究を進めることを心掛けなければならない、というアドバイスをいただきました。

中村三春先生(映像・現代文化論研究室)

当日は、博士後期課程の大学院生とポスドクを中心に計20名の方が参加しました。アンケート結果では、全員が「満足・やや満足」と回答(有効回答15名・回収率75%)。また自由筆記欄には、「出版社の事情について大変参考になった」、「個人の体験談・経験談がとてもためになった」等のコメントが寄せられました。