行き止まりで生き残るための道を探す

プロフィール

森口 眞衣さん(日本医療大学 保健医療学部 看護学科 准教授)
石川県出身。北大文学部卒業後、大学院文学研究科に入学。思想文化学専攻 文化価値論専修(当時;宗教学インド哲学専修の前身)にて、インド哲学のサンスクリット文献を研究。博士後期課程の頃よりインド学と医学の接点を扱う研究テーマに携わる。2004年3月博士(文学)を取得後、学振PD、専門研究員などを経て2014年より現職。新設大学の立ち上げで奔走の中、教育研究を行っている。

北大文学研究科を選んだ理由

当時の研究室では、希望する専門領域を述べると指導教員から文献を1冊手渡され、それを読んで卒業論文を書くのが伝統でした。しかし教員の異動で専門領域の指導者が不在の時期があり、自力で読んだ文献の内容が理解できず、卒業論文はひどい仕上がりでした。翌年度に自分が目指す専門領域の教員が着任することを知り、卒論を書き直そうと思ったのが理由です。

大学院ではどんな研究を

「六派哲学」と呼ばれる領域のひとつミーマーンサー学派の文献を使った、言語認知に関する伝統学説の変遷です。結果的に学部卒論でいただいた文献は学位取得まで読み続けることになりました。学術論文には書きにくい背景を想定することが好きで、先生との議論を脱線させてばかりでしたね。その過程でいわゆるインド学の文献研究以外にも関心をもつようになりました。

博士後期課程への進学理由

翻訳が一区切りすると指導教員の吉水先生から「何が言えるか好きに書いてみなさい」と指示があり、それについて議論を繰り返しました。文献を読むだけでは気づけない話題が広がるのは楽しく、修論にやり残しを感じて進学を決意しましたが、入試面接の場で「生き残っても食えないであろう」というお告げのような言葉。閉塞感と危機感を抱えてのスタートでした。

北大文学研究科に進学してよかったこと

黙々と続ける文献読解、果てしなく続く議論。研究のおもしろさは地道な積み重ねの向こうに見えてくることを学びました。また私は結果的に自分の専門を変化させたので、自分が納得できる区切りをつけることの意義も学びました。どちらも北大文学研究科でなければ得られなかった、今の自分にとって大切な心構えです。 現在でもさまざまな場面で、北大出身でよかったと感じることが多いです。「北海道大学」という大学名はそのまま「北海道」のおおらかなイメージにつながっているような気がしますね。

在学中大変だったことは

ちょうど講座制変更などで研究室の院生が少ない時期に在籍したので、指導教員からはマンツーマンで濃い指導を受けられましたが、話の通じる仲間がいなかったことはつらかったですね。ひとりで悩むことの限界を痛感しているのに相談相手が周囲にいない、という状況に耐えるのは大変でした。

修了後から現職までの道のり

医学部教員と仏教説話に関する共同研究 → 学振PDに採用され医学部保健学科へ → 医学関係の文献調査 → 文学研究科に専門研究員として復帰 → インド精神医学史研究で科研費獲得 → 哲学・文学・宗教・人間学・生命倫理などの科目で非常勤講師 → 看護学科の倫理学担当教員として採用(現職)。 その時点では自分の研究と直接関係がない気がしても「いつか役に立つ」と言い聞かせ、まずは生き残るため、自分を追い詰めない抜け道を確保するつもりでさまざまなことに取り組みました。

現在の仕事・研究内容

先輩のいない一期生のための歓迎会など、新設校ならではの業務が多い

新設大学開校時に採用されたので、大学というシステムづくりに関わる仕事が多いです。北大時代に獲得した科研費で宗教と医療に関する研究を継続し、教育では生命倫理や死生観などを医療系の学生に教えています。どちらも大学院時代は専門外の領域と考えていましたが、自分の研究とつながる部分が増えてきた気がします。

 

大学院で学んだことは今の仕事に役に立っていますか

「頭のなかにあるものをとにかく書いてみる」という吉水先生のご指導は今でも大切にしています。言語化の訓練を重ねたことは、あらゆる書類の作成、職場での言語的やりとりに役立っています。また大学院時代からさまざまな形で「分野の異なる人にものごとを伝える」という経験を積んできました。それは文字通り分野の異なる現在の職場で少なからず役立っているように思います。

今後の目標と夢

今は大学の立ち上げでとにかく日々大変ですが、また新しいテーマを見つけて今の研究とつなげてみたいと思っています。医療系大学は専門資格取得を前提とした学習が中心ですが、学生が人文学領域のおもしろさに興味をもつような教育・研究を展開していきたいです。

これら進学する皆さんへのメッセージ

地理的には不利といわれますが、北大には教員・資料・設備を含め不便さを補って余りある充実した研究環境があります。幅広い研究領域をカバーする多くの研究者がいて、やりたい研究を受け入れてくれる懐の深さも魅力です。また文学研究科の支援制度には苦悩する院生やポスドクを支えようという温かさがあります。応援の気持ちにあふれたサポート態勢は、修了後も研究継続を望む若手研究者にとって何よりありがたいものです。進学後の先行きに対する不安はもはや必須といえますが、こうした制度も積極的に活用して、ぜひ自分の研究と夢を実現してほしいですね。

(2014年12月取材)