学部年生授業で運命の出会い、そして今の道へ

プロフィール

横川 大輔さん(札幌国際大学 観光学部 国際観光学科 専任講師)
北海道北斗市出身。北大文学部卒業後、大学院文学研究科に進学。歴史地域文化学専攻 西洋史学専修にて神聖ローマ帝国について研究。学部1年生の最初の授業で運命の出会いを経験、自分自身は研究者になるのだと確信し、当然のこととして博士後期課程へ。2010年博士(文学)取得後、学振PD、在外研究、専門研究員を経て、2013年より現職。神聖ローマ帝国の研究を継続しつつ、文化遺産など歴史の成果を観光に活かすという新たな試みにも挑戦中。

北大文学研究科を選んだ理由

高校生の頃から歴史が好きで、大学ではヨーロッパの歴史を学びたいと思っていました。学部1年生の春、当時、それほど興味がなかったドイツ史の授業に出席しました。学部1年生対象とは思えない専門的な歴史問題を扱う内容の濃い授業に、「ズキューン!」とハートを射抜かれました。何年に何があったという歴史的事実を追うのではなく、中世に国家はあったのかという問いから始まり次々と議論が展開していく授業を受けながら「これが大学の授業なんだ」と衝撃を受けたことを鮮明に覚えています。授業を担当されていたのが後の指導教員となる山本先生で、その授業で扱った「14世紀から16世紀の神聖ローマ帝国の国制構造の変動をどう理解するのか」というテーマに、以後ずっと取り組んでいます。まさに、運命の出会いでした。一番最初に触れた本物が山本先生だったので、その後の進路は迷わず山本先生のご指導を受けられる道を選びました。

大学院ではどんな研究を

中近世の神聖ローマ帝国について研究しました。ゼミでは、研究報告をしたり、史料を読んでその解釈をしたりします。先生と自分の解釈が異なるときは、徹底的に議論しました。自分の説明では、先生が納得されなかった時は、次までに調べてきますと言ってまた議論の材料を探し、理論武装をして挑んでいく。その繰り返しでしたね。

博士後期課程への進学理由

博士後期課程へは、当然行くものだと考えていて、迷いはなかったですね。ただ修士論文は、議論のまとめ方が未熟だったので、自分としてはあまりうまく書けなかったという思いがあり、ここで終わりかもしれないと考えていました。院試の合格掲示板に自分の番号があったときには目を疑いましたが、博士課程では修士論文のテーマをもっと掘り下げて、必ず面白さを世に伝えようと決心しました。そのあと指導教員の先生の研究室に呼ばれ、「将来、研究職に就けるかどうかは運もある。運を確実につかめるように日頃から努力をしておきなさい。」と言われたことを覚えています。

北大文学研究科に進学してよかったこと

大学院に行かなければ、今、自分に見えている景色はなかったはずです。行かないとまともになれないという意味ではありませんが、私の場合は大学院進学によって少しはまともな人間になれたと思っています。大学院は、特定の研究テーマを学ぶことに加え、「ものごとの見方、考え方」を磨く場です。研究室では議論の際に、相手を論理的に納得させる力、また自分が納得できない時は、どういう点が納得できないかをきちんと説明できる力が鍛えられました。この議論する力が、今の自分を支えてくれています。

在学中大変だったことは

修士課程に進学したばかりの頃は、大学院レベルの勉強についていくのが大変でした。前期のゼミが終わった時に「半期やれば伸びるもんだね」と山本先生に言われたことが糧になり、その後の勉強をがんばれました。博士後期課程では、研究者としての能力、就職のことなど、将来に対する不安がありました。

修了後から現職への道のり

学振PDに採用され、その期間中にベルリン・フンボルト大学で在外研究をしました。ベルリンでの生活は、研究に集中できた貴重な期間でした。その後、1年間の専門研究員の後、現職に採用されました。採用にあたっては、私の研究領域では一流とされている学術雑誌に論文が掲載された業績が、研究力の評価となり、また、面接時におこなった模擬授業で教育力が評価されたと後に聞きました。

現在の仕事・研究内容

わかりやすい授業方法は、大学院の学びで磨かれた (2015年12月若手研究者支援セミナー「アカデミックポストにたどりつくまで」にて)

引き続き神聖ローマ帝国の研究を続けています。また現在の所属学部が観光学部なので、歴史の成果、例えば文化遺産を観光に活かすという試みにも挑戦中です。山本先生をはじめ、西洋史学講座の先生方は「大学に入りたてだから易しいもの、ではなく、一番最初だからこそ本物の授業を」とおっしゃいます。私の進路を決定づけた出会いが授業だったからこそ、現職で授業を行う際には、私も「最初に本物」の姿勢を心がけています。1年生向けの最初の授業が一番緊張します。

大学院で学んだことは今の仕事に役に立っていますか

ゼミで「議論のしかた」を身につけたことは、歴史研究をしていく上で非常に役に立っています。学生であっても議論の場で一人前の人間として扱ってくださった西洋史学講座の先生方には感謝しています。院生時代に自主ゼミのような読書会を、学部生も交えて企画運営していました。知識の蓄積があまりない学部生を相手に、わかりやすく情報を伝える方法であったり、論理的な本の読み方を工夫して伝えるといった経験が、この読書会で培われました。この経験が、現職で授業やゼミ、学生指導をする時に役に立っています。

今後の目標と夢

研究者としては、研究内容をまとめた単著を出したいですね。これまで自分が研究してきたことをきちんとまとめて、本にしておきたいと思います。教育面では、歴史がきらいな学生にも歴史を学ぶ喜びを与えることと、これまで自分が得てきたものを後進に伝え、歴史の研究者を育てていきたいと考えています。

これから進学する皆さんへのメッセージ

北大は日本のリーディング・ユニバーシティ。世界の研究の第一線で活躍する教員がたくさんいます。そこで学べる楽しさ、喜びが、北大の一番の魅力です。世界とつながっていることを実感できます。私は入学してそのことをはじめて知ったので、ぜひ、皆さんにもその魅力を実感してほしいですね。

(2014年12月取材)