30 北大人文学カフェ「斬られる京劇にみる女性、亡霊、そして現代中国—」開催されました

2022年11月13日(日)、第30回北大人文学カフェが開催されました。今回は「斬られる女 — 京劇にみる女性、亡霊、そして現代中国—」と題して、話し手の田村容子准教授(中国文化論研究室)に、中国の伝統劇である京劇が伝統的な様式を継承しながら、日本や西洋の影響を受けた近代劇の要素も吸収し、時代に合わせて変化し続けてきたことについて、実際の京劇の演目の一部を見ながらお話しいただきました。お話の後は参加者の皆さんと質疑応答を通して交流しました。3年ぶりに会場にお客さまを迎えてのハイブリッド開催。当日は、オンラインを含め131名の方に参加いただき、事後視聴を含めると311名の方にご覧いただきました。

第1部は、田村先生のトークの時間です。導入に「京劇とは何か」という説明がありました。中国の伝統劇である京劇の歴史や舞台構造、役柄の類型の基本情報の解説の後、20世紀以降の中国社会の近代化、現代化に合わせて、日本や西洋文化の影響を受けながら変化してきたという説明がありました。

次に京劇の中の女性役と道化役に注目したお話がありました。中国の古典小説として有名な『水滸伝』を原作とした京劇映画『武松』の一部を見ながら、斬られる女の女性役と道化役の演技について、田村先生に解説していただきました。

さらに、中華人民共和国の建国後、中国共産党政府による京劇改革プロジェクトが行われ、それまでの脚本にあった霊魂や幽霊など、死者が現在の人間に影響を及ぼすといった部分を整理したり削除したりして、「迷信の排除」ということが行われたと解説されました。参加者は、京劇改革前と後の脚本を比較し、実際の演目の映像を見ることで、迷信の排除という京劇改革の内容を確認するともに、改革に伴い新たにもたらされた演技を知ることができました。

最後に、小説『水滸伝』には出てこない「斬られた女」のその後について、京劇がその民衆の疑問に応えるかたちで存在しているという説明がありました。斬られた女の亡霊が出てくる『活捉三郎』という演目を見ながら、京劇では亡霊の演技をどのように表現するのか、また斬られた女が道化役の男を道連れにあの世に連れて行くという演技について解説していただきました。中国の小説は知識人男性により、文字が読める人を対象として書かれていますが、小説では取り上げられなかった民衆の疑問や要望を取り込む形で演劇がつくられていったのではないかという考察でまとめられました。

休憩時間に会場から寄せられた質問カードに目を通す田村先生(左から2人目)。中国文化論研究室の大学院生・学部生の皆さんが質問整理を手伝っています。

第2部は、参加者の皆さんからいただいた質問に田村先生が回答していく対話コーナーでした。聞き手の中国文化論研究室の博士後期課程大学院生、熊征(ゆうせい)さんが、いただいた質問を紹介し、それに田村先生が順に回答していきました。

いただいた質問を紹介する熊征さん(左)と回答する田村先生。熊征さんは中国人留学生の立場から、現代中国の若者が京劇をどのように捉えているかという紹介をしました。

演目の組み合わせや演じられ方、亡霊の役割と排除する意味、道化役のメイク・役割、京劇に使われる楽器、悪女が取り上げられる理由、鑑賞した京劇の女性役俳優の性別、小説『水滸伝』と演劇との違い、姦通を取り扱った言論表現の規制、京劇の海外公演、日本の演劇が中国から受けた影響など多くの質問をいただきました。

参加された方からは、「実際の京劇映像を見ながらお話いただいたので、内容がよく理解できた」「京劇の歴史的背景を知ることができ、理解が深まった」「中国人の大学院生の生の声を聞くことができたことがよかった」「配付資料やスライドがわかりやすく、楽しく学べた」「水滸伝が好きなので面白かった」「質問タイムがとても充実していた」「中国共産党の指導によって改変がされたことが興味深かった」等、多くの感想をいただきました。どうもありがとうございました。