19回北大人文学カフェ「カギ現場にありエスノグラフィー可能性―」開催されました

12月10日(土)紀伊國屋書店札幌本店1階インナーガーデンにて、第19回北大人文学カフェが開催されました。今回のテーマはエスノグラフィー。「カギは現場にあり―エスノグラフィーの可能性―」と題して、話し手の小田 博志先生(文学研究科・歴史文化論講座)に、徳島県上勝町の「葉っぱビジネス」を事例として、エスノグラフィーとは何か、そしてエスノグラフィーにはどのような可能性があるのかについて、お話ししていただきました。当日は、積雪65cmという12月上旬としては29年ぶりの記録的大雪にもかかわらず、50人以上の方々にご来場いただき、現場の重要性についてフロアからも語っていただくことができました。大雪の中、また暖房が十分ではない会場にもかかわらず、ご参加いただきました皆様に改めてお礼申し上げます。

第1部では、まず月収200万円のおばあちゃんたちが活躍する徳島県上勝町の葉っぱビジネスの成功と、その立役者である横石知二さんについてのお話がありました。そして、単に経済的活性化だけではなく、高齢者のウェルビーイングや過疎化の歯止めへと導いたこの事例の成功のカギがどこにあったのかに関して、研究エスノグラファーとしての小田先生の分析と、現場エスノグラファーとしての横石さんの現場力について説明されました。

横石さんの「葉っぱを売ろう」というひらめきが、いかにして現実のものとなったかという研究エスノグラフィーの「問い」に対して、小田先生が導き出した答えは、合わせる・活かす・小さな仕組みの大きな働きでした。そしてそれは、ひらめき力を発揮するだけでなく、現場を活かす仕組み作りに、柔軟にそして粘り強く取り組んだ横石さんの現場力に通じています。

研究エスノグラファーも現場エスノグラファーも、現場で問いを発見し、現場で答えを導き出します。小田先生は、研究エスノグラファーは現場エスノグラファーから大いに学べるのであり、また近年では研究者と現場の実践者とが共働する「アクションリサーチ」もみられるようになってきていると説明されました。そして最後は、社会に横たわる様々な問題を解くカギは、その問題に直面している私たち自身とその現場の中にあるとの小田先生からのメッセージで、第1部が終了しました。

話し手の小田博志先生。
人類学をご専門とし、特に近年は人類学のアプローチによる平和学の調査・研究に取り組まれています。

第2部のQ&Aコーナーでは、エスノグラフィーの限界や人間以外を対象としたエスノグラフィーの可能性など、様々な質問が寄せられました。さらに、参加者の中からアフリカという異文化での体験や国内の教育現場での体験について紹介していただくことができ、会場と小田先生との双方向コミュニケーションで話題が広がりました。また小田ゼミで実際にエスノグラフィーを学んでいる北大文学研究科の大学院生たちにも現場体験を語っていただきました。

会場から寄せられた質問カードを、小田先生と小田ゼミの大学院生たちがテーマごとに分類していきます。
第2部は、聞き手の中野 悦子さん(文学研究科・リサーチ・アドミニストレーター(URA))が質問カードを読み上げ、小田先生が応える形で進行しました。
フロアから、ご自身の現場体験を語っていただきました。
小田ゼミの大学院生たちも、自身の現場体験について紹介しました。

現場の扉をひらくコツは、何よりも、現場をよく観て、当事者たちの声をよく聴き、そこから発想を挙げていくというボトムアップであると小田先生。「カギは現場にあり」ということの意味を考える1日となりました。