大学院進学の夢を叶えて字書研究者のスタートラインに。

PROFILE

天津科技大学では情報処理を学び、社会人時代はSEや通訳として活躍。漢字コードの開発も手がける池田先生の研究内容に「情報処理という接点を見出した」と話す。

言語文学専攻 言語科学専修 博士後期課程3年(所属は2018年度以前の組織のものです)
李 媛 (LI Yuan)

1983年中国寧波省生まれ。天津科技大学情報処理学科卒業後、広島でエンジニアとして勤務。
その後北京・上海で働き、2011年4月から北海道大学に留学。
平成27年度(第10回)漢検漢字文化研究奨励賞、2016年度 人文科学とコンピュータシンポジウムで最優秀論文賞受賞。

 

日本留学で育んだ大学院への憧れが、現存する最古の漢字字書に出合って北大で開花。
国内外の学会発表を重ね、研究者の階段を一歩ずつ確かな足取りで上っています。

あきらめきれなかった大学院助言で知った最古の漢字字書

天津科技大学3年生のとき、交換留学生として1年間京都で暮らしました。充実した研究生活を送っている大学院生の友達を見ているうちに、「自分も専門的な研究をしてみたい」と思うようになりました。でもその当時は踏ん切りがつかなくて一度社会人になりましたが、やはり自分の気持ちに嘘はつけなかった。小さい頃から漢字が好きで、漢字研究ができるところをネットで探しているうちに、北大の池田証壽先生のサイトにたどり着きました。
当初は漢字の簡略化を研究テーマにするつもりでしたが、池田先生から「漢字研究をしたいのであれば、より古い資料から始めたほうがいい」と勧められて、現存する日本最古の漢字字書『篆隷万象名義(てんれいばんしょうめいぎ)』という現在のテーマと出合うことができました。

閲覧申請と調査準備を入念に日中字書交流の歩みをたどる

私の場合、文献調査は現存する原本の覆製本と近世写本を比較するところから始まります。見たい資料が貴重であればあるほど、手続きや準備は入念にしなければなりません。なかには閲覧申請書を事前に提出していても、その場でもう一度質疑応答を求められたこともありました。いつでも答えられるように研究目的や閲覧理由をしっかり整理しておくことが必要です。
資料の閲覧時間は限られているため、あらかじめ調査台帳に調査ポイントを整理しておきます。私も最初は苦労しましたが、閲覧経験を積むたびにポイントがわかるようになりました。将来は研究職志望です。平安時代から現在まで続く日中の字書交流史に魅せられた研究者の一員として、池田先生の教えどおり“手間を惜しまず丁寧に”研究を続けていきたいです。

柔軟な研究テーマ選びが真実への近道に

李さんが池田先生の研究室に受け入れられるまでのプロセスを教えてください。

窓口は文学研究科の国際交流室です。池田先生のもとで学びたいという内容のメールを送ったらすぐに先生からの最初の課題、論文の英文翻訳の課題が送られてきました。締切まで時間がなくて焦りましたが、なんとか集中して締切を守ることができました。次に自分のやりたい研究テーマを2000〜4000字で提出し、そこからは個別のアドバイスをいただけるようになりました。
現在行っている研究は北大入学前に希望していた研究テーマからズレたように見えるかもしれませんが、実は古字書の研究をしているうちに漢字簡略化の根拠も見えてくるようになりました。研究も人生も誠実に向き合っていればそのうち真実に近づけると信じて、焦らずに歩いていきたいです。