学生時代の現場で仕事ができる喜び

プロフィール

渡邉 つづりさん(豊浦町教育委員会勤務)
江別市出身。札幌第一高校卒業後、北海道大学入学。文学部では歴史学・人類学コースで考古学を中心に学ぶ。学部卒業とともに学芸員資格を取得、大学院文学研究科歴史地域文化学専攻北方文化論専修に進学。高瀬先生のもとで考古学の観点から“鉄”の道具について研究して2015年3月修了。2015年4月より豊浦町で学芸員として活躍中。

北大文学研究科(北方文化論専修)を選んだ理由

国内外問わず、考古学を学び、研究することのできる大学院は多くあります。しかし、北海道における人類の歴史を明らかにしたいと考えたとき、やはり北大文学研究科の北方文化論専修しかないと思い進学を決めました。北海道はもちろん、日本国内の文献史料へのアクセスの容易さや考古資料の豊富さ、そして何よりも、高いレベルの指導が受けられることが北方文化論専修で研究をおこなう上での大きな利点だと思います。

大学院ではどんな研究を

学部2年生から本格的に考古学を学びはじめ、夏期休業には、北方文化論講座が毎年おこなっている虻田郡豊浦町での遺跡発掘調査で実践を通じて知識や経験を得ました。卒業論文は考古学の観点から“鉄”の道具(鉄器)、特に“刀”をテーマとして執筆しました。大学院でも引き続き、“鉄の道具”について研究しました。考古学は、人類の歴史(人類史)を“モノ”という視点から明らかにする学問領域です。修士論文は、“鉄斧(てっぷ)”を研究対象として、どのような形態の鉄斧が存在し、それらの変遷や分布について、東日本から北海道をフィールドに研究しました。考古学といえば、土器や石器がメジャーな研究対象となっていますが、私はあまり研究が進んでいない鉄斧(鉄器)を研究することで、東日本・北海道における道具の歴史の一端を明らかにしたいと考えました。

大学院に行ってよかったですか

学部生のときよりもさらに一歩進んだ研究をすることができたことや、遺跡の発掘調査においては学部生を指導するという責任ある立場でフィールドワークをおこなえたことで様々なことを学ぶことができたので、大学院に行って大変よかったと思います。

在学中、大変だったことはありましたか

大学院に進学する前から修士論文に向けてデータの収集や分析をはじめましたが、進学後、想定していたような分析結果がなかなか出ず、修士論文は何度も仮説の修正をしながら執筆しました。研究の過程としてはごくあたりまえなことではありますが、なかなか考えがまとまらず、暗く先が見えないトンネルを歩くような気持ちで論文を執筆することはとても大変でした。

現在のお仕事の内容

小幌海岸にて地元小学生の地域学習の講師を担当(2015年9月16日)
右端で解説しているのが渡邉さん

現在、学芸員として豊浦町教育委員会で勤務しています。学芸員資格取得に必要な知識や単位には、北方文化論講座で開講されている講義等が多く含まれていたので、スムーズに取得できました。大学院では博物館学について学び、その一環で北海道大学総合博物館の展示リニューアルの企画から実施に携わるなど、学芸員に必要なスキルと経験を、実践を通じて得ることができました。 現職では、教育委員会主催の事業で町内の歴史や遺跡について小中学生や一般町民にレクチャーしたり、町内や近隣市町の遺跡発掘調査に参加したりと専門分野である考古学に関する業務をおこなっています。豊浦町小幌洞穴遺跡、礼文華遺跡は、北大在籍時からの調査現場で、現在も北大と協働して発掘調査をバックアップさせていただいています。専門分野以外の業務も多くあり、たとえば、豊浦町は洞爺湖有珠山ジオパークに登録されていることから、火山学や地質学などの観点から防災について町民にレクチャーしたり、高齢者大学で講師を務めたりと多岐にわたる業務をおこなっています。

大学院で学んだことは今のお仕事に役に立っていますか

学芸員は、専門的な知識やスキルが要求されます。そのような職業に就いて今現在、日々の仕事をこなせているのも、学部と大学院で得た知識や経験があってこそだと思っています。

今後の目標・夢

私が勤務している町には、学術的に重要な遺跡や、豊浦の地形の成り立ちを知ることができるジオサイトが数多くあります。その一方で、博物館や郷土資料館といったものがまだありません。そうした施設の設置を目標に、町のこれまでの歴史がかけがえのないすばらしいものであることを町民に伝え、みなさんの“知りたい”“学びたい”をサポートしていきたいと思っています。

後輩のみなさんへのメッセージ

文学研究科では、様々なことを学び、研究することができ、そのためのとてもいい環境がととのっていると思います。「こういうことが学びたい」「こういうことがもっと知りたい」という気持ちとやる気さえあれば、とても充実した大学院生活が送れると思いますので、ぜひ文学研究科に進学してみてください!

(2015年9月取材)