歴史学研究を通して磨かれた観察眼で、日本と中国の架け橋になる

プロフィール

黄 偉隴 さん(株式会社JSE 勤務)
中国江西省出身。中国浙江省嘉興学院で日本語を学び、外国語学部主催の中日留学生交換プロジェクトに参加して、京都のITビジネススクールの大学院にて学ぶ。その中で、歴史を学びたい思いが強まり、1年後、北海道大学文学研究科に入学。研究生を経て修士課程に入学。歴史地域文化学専攻歴史文化論専修にてキリスト教とイスラームの歴史の双方を扱うイコノクラスム(聖像画破壊運動)の歴史を研究。2015年3月修了、2015年4月より中国向けの国際貿易会社JSEに勤務。

北大文学研究科(思想文化学専攻)を選んだ理由

中国浙江省嘉興学院で日本語を学んでいた時、外国語学部主催の中日留学生交換プロジェクトに参加し、京都にあるITビジネススクールの大学院に進学しました。ITよりもっと興味のある歴史を学びたくなり、1年後に京都の大学院を退学し、憧れの北海道大学に入学しました。大学を選ぶ際に、色々な大学の歴史系の講座のホームページを見比べてみました。その中で、北海道大学の歴史地域文化学専攻の圧倒的な教員数と北海道の豊かな自然に惹かれ(中国人に日本のどこが一番好きと聞いたら、北海道と答える人が一番多いと思います。)ました。何より、自分の一番興味のあるキリスト教の歴史を扱っている太田敬子先生の指導を受けたいと思い、北大文学研究科の歴史文化論専修を選びました。入学してから、まずは研究生として1年半在籍して歴史学の基礎を固めました。その後は修士課程の入学試験に合格し、2年間大学院生として歴史の研究に励み、修了に至りました。

大学院ではどんな研究を

キリスト教の歴史といえば、イスラームの歴史も必然的にかかわってきます。 私が研究していたのは、8世紀前半にビザンツ帝国とアラブ帝国で行われていたイコノクラスム(聖像画破壊運動)の歴史です。研究テーマは「政治的側面から見たイコノクラスム ―ヤジード2世とレオン3世の時代を中心に―」です。イコノクラスムは今まで、宗教、経済、文化、神学など様々な方面において研究されましたが、あえて、その中でもあまり注目されていなかった政治的側面からイコノクラスムの歴史を研究しました。

大学院に行ってよかったですか

学位授与式の黄さん

北海道大学の大学院に進学し、そして修了したことを誇りに思っております。行って本当に良かったです。特に、大学院での歴史学の勉強を通して、自分が、より理性的な、より真実を見極められる、価値観が多様化した現代に対応できる人間になったと感じます。

 

在学中、大変だったことは

イスラームの歴史に深くかかわってくることから、アラビア語の勉強もしなければなりません。ゼロからアラビア語を勉強し始め、更にそれを直接に史料研究に生かさなければならないため、最初の2年間は本当に大変でした。また、北海道は11月ごろから4月までずっと雪が降り、しかも4月まで雪は融けませんので、南から来た私にとって、最初の2、3年間はなかなか慣れなくて、身体的にも精神的にもかなりきつかったのです。

修了後→現在までの道のり

修了後は国際貿易の会社に就職しました。中国に関わる仕事がしたいので、暖かい九州にある中国向けに日本商品を輸出している貿易会社に就職しました。

現在のお仕事の内容

九州の展示会で、私が特に注目した中山吉祥園というお茶を作る会社です。 中山吉祥園は日本初の抹茶のハラール認証を取ったお茶屋です。

商品は国の顔です。その国の商品からその国の国民性が大体わかります。私の仕事は日本の顔を中国世界に紹介することです。日本で開催される多くの展示会に行って、中でとりわけ素晴らしい商品(主に食品)を見つけ出し、メーカーや商社と商談し、通訳や翻訳もしながら、最終的にその商品を中国に輸出することが私の主な仕事内容です。自分の力で、日本のよい商品を見つけ、その商品を通して、日本の魅力を世界に発信できたらいいなと思います。

大学院で学んだことは今のお仕事に役に立っていますか

大学院で研究していた歴史学自体は正直、現在のところ生かしておりませんが、歴史学を学ぶ際に、常に鋭い目で、総括的に物事を観察しなければならないため、3年半鍛えてきたその見えない部分の能力で、商品の選定や商談においては大いに生かしております。

今後の目標・夢

現在の仕事を誇りに思いながら、日本の商品を通して、より多くの中国人に本当の日本を知ってもらうのが目標です。そして、日本全国を巡り、日本を満喫した上に、日本通になることが夢です。

後輩のみなさんへのメッセージ

大学院に行くかどうかによって、あなたの人生は大きく違ってくると私は思います。中国と比べて、今の日本の大学生は卒業してからすぐに就職する傾向が強いと見られます。大学卒業生と大学院修了生の一番大きな違いは独自の考えを持っているかどうかの違いだと思います。どの研究科も一緒ですが、自分はどのような人間になりたいのかをじっくり考えてから、進路を考えれば、大学院進学のことも自ずと答えが出てくると思います。

留学希望の方へ:北海道大学は専門を問わず、とにかく世界各国から来た留学生が多いです。お互いに助け合ったり、異文化交流したり、非常に楽しい留学生活を送ることができると思います。 また、ほかの大学と比べて、北海道大学は留学生に対して、各方面において積極的且つ強力にサポートしてくれる体制を整えています。在学中は他大学の留学生に羨まれることも多々ありました。寒さを気にしないのであれば、日本の大学を選択する際は、自由で優良な校風を持つ北海道大学を第一にお勧めします。

(2017年8月取材)