過去から未来を開く考古学とともに

プロフィール

荒山 千恵さん(いしかり砂丘の風資料館 学芸員)
北海道札幌市出身。札幌国際大学卒業後、大学院文学研究科に進学。歴史地域文化学専攻 北方文化論専修にて考古学を研究。2008年3月に博士(文学)を取得後、大学非常勤講師等を経て、石狩市に就職。学芸員としていしかり砂丘の風資料館勤務。地域の文化財にかかわる調査研究や教育普及などに取り組んでいる。著書に『音の考古学−楽器の源流を探る』(北海道大学出版会)。

北大文学研究科を選んだ理由

北大札幌キャンパスの地下には遺跡が眠っています(K39遺跡等)。大学生のときに、構内で発掘調査中の現地説明会で土の中から現れた遺構や遺物を目の前にしたとき、足元に遺跡のあるキャンパスで考古学の研究に取り組めることに魅力を感じました。その出来事が北大文学研究科北方文化論講座の考古学研究室で専門性を深めようと決めるきっかけになりました。

大学院ではどんな研究を

2つあります。ひとつは、考古学研究室で実施しているフィールド調査(遺跡の発掘調査など)に参加して、北海道の考古学研究に取り組みました。貝塚や洞窟遺跡など、教員・先輩・後輩と共に取り組んだ学術調査の経験は、スキルを養う貴重なものになりました。もう一つは、「音の考古学」をテーマにした調査研究です。日本各地で出土した音を発するための道具の可能性のある遺物を対象に、楽器の源流を明らかにすることを目指した研究です。その成果は、修士論文、博士論文としてまとめました。今でも私自身のライフワークともいえる研究テーマになっています。

博士後期課程への進学理由

修士課程から本格的に取り組み始めた「音の考古学」の調査研究をさらに深めたかったからです。この研究は未開拓の部分が多く、全国各地への資料調査を地道に行う必要がありました。学問の道なき道へ進むことには勇気と覚悟が必要でしたが、同時に、自身で未知の世界に光を当て新たな発見や解明があることに、研究の意義・面白さ・やりがいを感じるようになり、進学へと背中を押されました。

北大文学研究科に進学してよかったこと

今になって振り返ると、大学院生として過ごした時間はとても貴重で、専門性を高めることはもちろん、応用力も養うことができました。大学院に進学して身につけたスキルを活かして、その後、国際学会での発表や論文執筆などにも意欲的に取り組めるようになりました。

在学中大変だったことは

進学してよかったですが、先の見えにくい研究者としての道のりに不安を感じることがあったことも事実です。当然ですが、博士後期課程に進学して学位を取得した先に、研究者として職に就く道が直結しているわけではありません。博士後期課程で養ったスキルを、その先にどう活かしていくのか。そのことを自身に問いながら、厳しい現実と向き合う日々もありました。

修了後から現職への道のり

北海道考古学会奨励賞(2017年度)授賞式

学位取得後から現在に至るまでの間に、研究者としての道のりで節目となる出来事がいくつかありました。ひとつは、博士論文をベースにまとめた『音の考古学−楽器の源流を探る』の出版です。この出版にあたっては、科学研究費補助金の出版助成を得ることができました。研究成果を書籍としてまとめることができたことは貴重な経験で、大きな一歩になりました。もうひとつは、北海道民族学会奨励賞(2014年度)、北海道考古学会奨励賞(2017年度)の受賞です。多くの方々の支えや励ましがあって研究を続けられていることに改めて感謝の気持ちでいっぱいになりました。また同時に、今後も調査研究に努めていこうと背中を押される機会にもなりました。

現在の仕事・研究内容

体験コーナーで子どもたちに縄文土器の文様について説明

修了後は遺跡発掘調査の仕事や大学非常勤講師などを経て、現在、いしかり砂丘の風資料館で学芸員をしています。仕事の内容はいろいろとありますが、地域の文化財にかかわる調査研究や教育普及などに取り組んでいます。

 

大学院で学んだことは今の仕事に役に立っていますか

はい、役に立っています。“文化財を扱う専門性”や“教育・普及啓発に活かす応用力”は、大学院在学中に学んだこと、さらに学位取得後から現職に至るまでの経験があったからこそ発揮できていると感じています。これからも、経験を積み重ねて実践力を磨いていきたいですね。

今後の目標と夢

地域の文化財を未来に残し伝えるための仕事は、単にモノを収蔵庫に保管しておけばよいわけではありません。なぜそれらを残す必要があるのか。どのようにして未来へ伝えるか。その価値を見出すことで、未来に残し伝えることに繋がるのではないかと思います。考古学の立場から歴史・文化を未来へ残し伝えることに貢献できるよう調査研究や教育普及に取り組んでいきたいです。

これから進学する皆さんへのメッセージ

北大は研究環境に恵まれサポートも充実しています。その環境を大いに活用し、広い視野をもってチャレンジしてほしいと思います。志を大切に一歩ずつ頑張っていきましょう。

(2017年8月取材)