【プラスミュージアムプログラム】910日公開授業「アートとしてのワークショップ、その行方」開催報告

アートとしてのワークショップ、その行方

開催日時:9月10日(土)13時〜15時
開催場所:北海道大学 人文・社会科学総合教育研究棟W202教室 ※オンライン配信併用
講師: 岡本康明(京都芸術大学客員教授)

「ミュージアムをめぐるアナリシス」第1部「対話と共生」の2回目では、日本における美術ワークショップの草分け的存在のお一人である京都芸術大学・岡本康明客員教授を講師にお招きしました。

現在、コロナ禍のために人との接触が制限され、ワークショップの開催が難しくなりました。このような状況の中、今回の公開授業は、岡本氏が高校教員、宇都宮美術館学芸課長、京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)教授などの経験をもとに、改めてワークショップが持っている底力や参加した人びとの心に深く刺さるような魅力について再考する内容でした。

岡本氏は高校教員時代にダンサー・舞踏家の田中泯氏を招いて、1000人の生徒の前にパフォーマンスしてもらったことの意味について「教師と生徒が同じスタートラインに立ったことでの対話の発生」であると語り、これは岡本氏が考える「芸術的体験」であり、「ワークショップ」の原点になっています。

また、教員としての経験から学校教育での美術と美術館教育の区別が必要であり、学校教育でできないことを美術館教育がすべきであるという考えを示しました。美術館教育という枠組みの中のひとつとして位置付けされるワークショップは、「明確な指導者もなく、ワークショップとして立ち現れる場、そしてそこに生起する活動の諸ベクトルの錯綜と結節の中に新たな学びを生起させる」と話した上で、この学びは学校での絶対的な関係の中に生まれる学びではなく、各個人が能動的に行われた時に生まれた学びとしてあります。

さらに、青木淳氏(建築家・京都市京セラ美術館館長)の『原っぱと遊園地』を引用し、学校教育のように、見ただけでどのように遊ぶかわかる遊具で構成・制度化されている「遊園地派」に対して、ワークショップの可能性として、そこで行われていることによって空間の中身が作られていく「空地派」を挙げました。

最後に、岡本氏が携わってきたワークショップの事例を通して、「芸術は前衛、教育は後衛」(那賀貞彦)という考えを提起した上で、ワークショップについて「コラボレーションによる出来事を生成の場」として定義しました。

ミュージアム(美術館)が芸術と教育をつなぐことの可能性を強く感じられる講演となりました。

卓 彦伶(北海道大学文学研究院 特任准教授)