26 北大人文学カフェ「わたしの孫が来た!! 顔の見えるブルガリア語方言研究」開催されました

2020年11月14日(土)、第26回北大人文学カフェが開催されました。コロナ禍の影響により、人文学カフェ初のオンライン開催となりました。今回は「わたしの孫が来た!! 顔の見えるブルガリア語方言研究」と題して、話し手の菅井健太准教授(文学研究院・言語科学研究室)にご自身の言語調査と研究についてお話しいただき、参加者の皆さんと質疑応答を通して交流しました。当日はおよそ40名の方にご参加いただきました。参加いただいた皆さまに感謝いたします。

第1部は、菅井先生のお話の時間です。まず、菅井先生の言語研究のフィールドであるブルガリアについて、またブルガリア国外でブルガリア語方言が話されている地域の紹介から始まり、ブルガリア語方言研究に関心をもったきっかけや研究の背景について説明がありました。
菅井先生の研究の関心は、「言語接触による言語変化」です。例えば、ルーマニアに住むブルガリア語話者のことばが、現地のルーマニア語と接触することによりどのような変化が起こるかということを調査研究しています。ルーマニアの首都ブカレスト近郊に位置する調査先ブラネシュティ村とそこに住む人々の紹介、調査の方法などが、現地の高齢の方言話者との豊富なエピソードを交えて紹介されました。
当初は、「調査する人とされる人」という関係性であったものが、何度も調査に通ううちに信頼関係が生まれ、そのうち現地の方から「わたしの孫が来た」と言ってもらえるようになったそうです。さらに、方言学、フォークロア研究、言語接触論の観点から調査の成果を解説し、ルーマニア以外の調査地における研究の発展について紹介がありました。
最後に、ことばは話者の文化、生活、歴史をも含んでいるアイデンティティとしての機能もあること、話者の高齢化により失われつつあるマイノリティの言語への人々の想いと、それを記述研究することで記録に残したいという菅井先生の想い、顔の見える言語研究の意義というまとめで締めくくられました。

ブラネシュティ村のブルガリア語方言が、ルーマニア語の文法構造の影響を受けて変化した例を説明する菅井先生
ブラネシュティ村に伝わる民謡を動画で紹介。歌ってくれたインフォーマントは、多くの人に自分の歌を紹介してほしいと菅井先生に託されたそうです。

第2部は、参加者からいただいた質問に菅井先生が回答していく対話コーナーでした。聞き手の野本東生准教授(日本古典文化論研究室)が、オンライン経由でいただいた質問を紹介し、それに菅井先生が順に回答していきました。
菅井先生がブルガリア語方言話者と会話する時に用いる言語について、方言を話すことによって現地の人とより親しくなれたか、対面調査以外に現地の方との通信方法はあるか、方言に書き言葉はあるのか、ブラネシュティ以外の地域の言語接触について、言語接触による文法変化と語彙・音声変化について、ブルガリア語民謡について、ブルガリアで標準語が定められた歴史的経緯、マイノリティと言語保持の関係、コロナ禍で現地調査ができない現状に対して菅井先生の考えなど、多くの質問をいただきました。

参加者から寄せられた質問を紹介する聞き手の野本先生
質問ににこやかに回答する菅井先生

参加された方からは、「ルーマニアのブルガリア方言の実際の音声データを聞けたことがよかった」、「ルーマニアの小さな村を対象とした地道な調査が言語研究に結び付くことに驚きました」、「言語接触の具体例を知ることができて有意義だったし、エピソードも面白かった」、「最初淡々と行った調査が、回を重ねる毎に研究者と協力者との間に親愛の情が生まれ信頼関係が築かれて行く中で、ただの調査結果であるはずが、それ以上の生き生きとした心のこもった宝物となるということに共感し感動した」、「コロナ禍でなければ、遠く離れた北大の研究者の研究内容を知ることは出来なかったと思うので、有意義だった」、「寒い時期はオンライン開催があると参加しやすい」等、多くの感想をいただきました。どうもありがとうございました。