学芸リカプロ受講生レポート特論3「文化拠点とまちづくり」(9/21 開催)

文化拠点とまちづくり
ライフスタイル ライフコース ミュージアム

イベントフライヤー

「文化拠点とまちづくり」参加報告(1)

横山 仁美(北海道大学大学院文学院 博物館学研究室  修士課程)

北海道東川町の複合文化施設「せんとぴゅあⅠ・Ⅱ」で開催された本イベントは、北海道大学大学院工学研究院の小篠隆生氏の講義からはじまりました。講義の後には、「せんとぴゅあ」の館内を実際に見学するせんとぴゅあさんぽを行い、せんとぴゅあの建物の特色やこだわりを持った部分などを紹介していただきました。最後に「ライフスタイル ライフコース ミュージアム」というテーマでシンポジウムが開催され、せんとぴゅあを話題の中心に据えつつ、文化施設をめぐる話でした。講義やぴゅあさんぽの中から、特に印象に残ったことを紹介します。

せんとぴゅあの設計者であり、東川町のまちづくりにも長く携わってこられた小篠隆生氏は、東川町複合交流施設 せんとぴゅあがどのような目的を持った施設であり、地域にとってどのような場所であるのか、どのように地域と連携してきたのか、またせんとぴゅあ建設の経緯やこだわったところ、運営体制について講義してくださいました。

会場入口にはミニブースを設け、受講生が企画した展示等に関する資料を展示しました。
北大構内の落木を利用したミニチュア椅子セット。「椅子の町、東川町」に伺うということで、学芸リカプロ事務局の鳥羽さんが制作しました。
レクチャー会場には、せんとぴゅあ施設内にあるさまざまな椅子を配置。参加者が、お気に入りの椅子を選んで講師のお話を聞きました。

印象的なことは、せんとぴゅあⅠの施設はかつて小学校であり、現在も外国人留学生のための日本語学校であるということです。1階はリノベーションし、教室の壁を減らして展示施設や食堂などとして活用されています。2階はあえてリノベーションをせず、小学校として使われていた時の状態になっており、現在は日本語学校の教室として使用されています。日本語学校の寮や食堂はせんとぴゅあⅠに併設されており、食堂は日中に一般に開放されています。かつて小学校の校舎だった建物を現役で使用し、住民が集まる場所となっていること、さらに日本語学校として使用されていることが印象的でした。

せんとぴゅあさんぽでは、せんとぴゅあの大野仰一館長に、せんとぴゅあⅠとⅡを案内していただきました。講義会場は、せんとぴゅあⅡだったのですが、せんとぴゅあⅡだけでなく、せんとぴゅあⅠも案内していただきました。施設を歩く中で、いたるところに人が集う場所があり、人びとが集まっているのを見て、せんとぴゅあは町民が集う場所となっていることをより感じました。また、東川町複合交流施設 せんとぴゅあⅠとⅡを建設するにあたり、調度品などに地域産業が盛り込まれています。それにより、この施設の独自性や地域性を強く感じました。

大野館長(中央)から、館内の説明をうける参加者。

本イベントを通して、東川町複合交流施設「せんとぴゅあⅠ・Ⅱ」は町民と行政の間に存在し、どちらからも支えられて運営されているということ、そして文化拠点として機能していることを感じました。

「文化拠点とまちづくり」参加報告(2)

沼田 絵美(小川原脩記念美術館)

今回は特論として、東川町「せんとぴゅあ」において「文化拠点とまちづくり ライフスタイル・ライフコース・ミュージアム」と題して講義・エクスカーション・シンポジウムが開催されました。当施設に関する移転、増改築、そしてプロジェクトのデザインを手掛けられた北海道大学工学研究院准教授の小篠隆生氏が、講師として全体を進めてくださいました。地域の背景、町づくりの観点、施設の役割といった各要素を、東川町をフィールドに実例が提示されました。

まずは小篠氏によって「地域的市民的立場と公共的行政的立場」「空間デザインと運営デザインの同時進行」など、公共施設のデザインの根幹となる部分を整理され、「せんとぴゅあⅡ」の開業に至るまでの小学校移転、移転先での教育と福祉の複合施設、旧校舎の学校として再生、大雪山ミュージアムの再生、そして旧敷地における新築と組織再編といった、8年間にわたる道程をお話いただきました。

「文化拠点とまちづくり Part2」と題して行われた小篠先生のレクチャー。8月19日の実践研究の続編として、せんとぴゅあを事例としたお話を伺いました。

次にエクスカーションとして「せんとぴゅあⅠ・Ⅱ」の見学をしました。新築間もない「せんとぴゅあⅡ」は図書を媒介とした空間(図書館ではなく)として、家具の町でもある東川町の地場産業を意識した什器やコレクション展示、大雪山ミュージアムを前面に据えたコーナー展開、自由度の高い図書の配架によるオープンスペースは、軸をしっかりと持ちつつも柔軟性に富んでいました。旧校舎を減築という手法で活用し、食・芸術・語学が融合した学びの場としての「せんとぴゅあⅠ」とⅡの連続性も大変魅力的でした。

せんとぴゅあIIの大雪山アーカイブの前で解説する大野館長
せんとぴゅあIの国際交流コーナー

最後に参加者全員がパネリストというユニークな形でのシンポジウムがあり、それぞれの地域における利用者特性や、立地の現況などを報告。交通アクセスの悩みや、私設図書館のアナログ的つながりの形成など、ハード・ソフト両面にわたって興味深い事例が次々と提示されました。佐々木亨氏の総括では、公共施設の中の人、司書と学芸員の姿勢の対比があり「人に寄り添いたい人と、寄り添ってほしい人」という面白みの中に気づきが込められた言葉が印象に残りました。「せんとぴゅあ」が同時に役割を担っている「図書」と「美術」、さらに「郷土史」(大雪山ミュージアムや織田コレクションをこのように纏めてよいのか分かりませんが)の各分野が、 お互いに補い合うからこそ、より良い「学び・遊び」の場となるのだと感じました。

「ライフスタイル、ライフコース、ミュージアム」と題したシンポジウム風景。参加者ほぼ全員がパネリスト、というスタイルで行われ、学芸リカプロ受講生のほか、せんとぴゅあの職員、東川町民の方々が、各自の立場から まちづくり、文化施設、ミュージアムについて語り合いました。

建築や公共デザインの専門家と地域の構成員が、どちらも根気よく、長期間連携し、検討を重ねられる環境づくりが、この「せんとぴゅあ」事例の要ではとお話を伺いながら思いました。連携によって魅力が向上し、集客・賑わいへと(帰り際に前庭での気球イベントに遭遇!)、いきいきと繋がる施設の現場を見て刺激を受け、それぞれの参加者の背景にある施設や組織にとって必要なものを見出す機会となったのではないでしょうか。