文学部での学びが現地体験に活き、社会問題への視野が広がりました

プロフィール

藤田 愛夏 さん(毎日新聞社 記者)
富山県富山市出身。富山県立富山東高校を卒業後、北大文学部に入学。文学部では人間システム科学コースの社会システム科学講座にて、社会学の観点から市民活動を学ぶ。3年生を修了後、1年間休学して3か月間パレスチナとイスラエルに滞在し、難民キャンプなどさまざまな場所を巡って現地の人たちの話を聞いたりボランティア活動をしたりして、現場で体験し、考える機会をもった。帰国後は、それを伝える活動をしながら卒論を執筆し、2014年3月卒業。
2014年4月より毎日新聞社に就職し、現在新聞記者4年目。

北大文学部を選んだ理由

大学生活を過ごすのに良い環境だと思ったからです。街の中心部にありながらキャンパスは緑に包まれて開放的で、のびのびとした環境で学べると思いました。総合大学で多種多様なフィールドで学ぶ人たちが集まっているのも魅力的でした。
文学部を選んだのは興味があった国際問題や社会問題を幅広く学べるからです。統計やフィールドワークなどの技法を身につけ、自分でテーマを設定し、探求してみたいと社会システム科学講座を選びました。
でも、北大の文学部を選んだ最大の理由は北海道という地に憧れがあったから。広大な北の大地で暮らし、大自然に飛び出したいという希望を胸に北大に入学しました。在学中、道内のあちこちで登山やバックカントリー、サイクリングなどのアウトドアを楽しみました。今ではすっかりアウトドアが趣味になっています。

文学部ではどんな研究を

卒論では市民活動について研究しました。市民活動をする人たちがどのようにして問題意識を持つようになり、何を動機にして活動しているのか、インタビューや社会学の学説などを踏まえて自分なりの論説を立てました。
4年間かけてこれを研究した、このテーマを極めた、というものは正直ありません。文学部での学びを通して得られたものは、物事を多角的に考えるたくさんの経験と力。パレスチナとイスラエルに行った際にもそれが生かされ、他の社会問題を考えるきっかけにもなりました。また、一見違う社会問題でも問題の構造が似ていたり、関連が見えてきたりさまざまな見方ができるようになったのではないかと思います。

北大文学部に行ってよかったですか

鹿児島県大島郡の沖永良部島で素潜りをする藤田さん
社会人になってからも毎夏、欠かさず潜っている
(2017年8月撮影)

よかったです。文学部が扱うのは何かの資格が取れたり、専門技術が身についたりするという分野ではありません。でも歴史や文化、社会や地域の問題や課題など非常に幅広い分野を扱い、自分の興味に対してさまざまなアプローチができます。自分でテーマを設定し、論理を組み立て、調査や学説を基にしながら自分の論理を裏付けていく力が身につけられたと思います。授業で他の学生と議論する中で同じテーマであっても自分とは異なる考えに触れ、物事を客観的に考えることができます。
もう一つ、良かったと思う理由は、自分の関心と希望に応じて、とてもフレキシブルな時間割が組めるので、工夫次第で自由な時間がつくりやすいこと。私は学業はそこそこに(やることはしっかりやった上で)、それ以外の時間は課外活動に力を入れていました。特に夢中になったのは国内外の旅行とアウトドア。安全に楽しむために、情報収集をして計画を立てたり、準備をしたりした経験も今では役に立っていると思います。
そして「きれいな海を見てみたい」と南の島に旅行に行ったことがきっかけで大学時代に素潜り(エアタンクを背負って潜るスキューバダイビングと異なり、身一つで海を潜る)を始めました。スキューバダイビングよりも海で「自由」を感じることができ、すっかりはまり、今ではライフワークになっています。
また、札幌市はほどよい都市規模でさまざまな社会問題に取り組んでいる団体などがあり、関心のあることに実際に関わるチャンスがかなりある場所だと思います。私は国際協力や東日本大震災の被災地支援、路上生活者の支援など、大学内外で開かれるイベントにもよく参加していました。

在学中、大変だったことは

卒論やレポートの作成は大変といえば大変でしたが、それほど苦になりませんでした。学問と部活やアルバイトなどの両立が大変だった時期はありました。大学生活は自由な時間を使ってさまざまなことができます。優先順位をつけながらうまく時間を使うことが大事だと思います。

卒業後→現在までの道のり

休学中の4年生になる直前に就職活動を始め、4年生の時に毎日新聞社から内定をもらいました。卒業と同時に松江(島根県)支局に配属。事件事故、スポーツ、行政などの取材を担当しました。4年目の今年4月に、人生初めての転勤で、神戸支局に異動しました。

現在のお仕事の内容

新聞記者として日々、さまざまなニュースを取材しています。事件や事故などのストレートニュースの他に、自分でネタを掘り起こし、人に話を聞いたり、資料を集めたりして、自分の言葉で記事を書き、写真も撮ります。松江での3年間は事件事故、スポーツ、行政をはじめ、街の話題やさまざまな活動に取り組む魅力的な人たちなどを取材していました。神戸では兵庫県内の事件や事故を担当しています。
例えば、スポーツ取材では高校野球(甲子園)のほか、松江市がテニスの錦織圭選手の出身地だったため、世界大会やオリンピックで活躍する度、地元の盛り上がりを取材。2016年には熊本地震の被災地や、オバマ前大統領がアメリカの大統領として初めて被爆地・広島を訪れた際に現地へ派遣され、街の様子を取材しました。今世の中で起きている出来事に肌で触れられることがやりがいの一つです。一方で時代の流れとともに消えてしまいそうな地域の文化や、戦争体験者や被爆者の体験や証言を記録する役割もあると思っています。この仕事をしていなければ出会うことができなかった人がたくさんいます。
精神的にも肉体的にもハードなこともありますが、自分の書いた記事を通して読み手が社会で起きている問題について考え、何かの行動の原動力になってほしいと思いながら仕事をしています。

大学で学んだことは今のお仕事に役に立っていますか

役に立っています。卒業論文やレポートの執筆での調査や課外活動を通して、ありきたりな言い方ですが、世界観が広がったと思います。学校での勉強が中心の高校までと異なり、大学での学問のフィールドはとても広いです。机に向かうだけでなく、現場に行ってみたり、ゆかりのある人に話を聞いてみたり、関心のあることをどん欲に追求し、その経験を伝える、という経験はとても刺激的で今の仕事を選ぶきっかけにもなりました。

今後の目標・夢

自分で掘り起こしたネタで1本でも多く読んだ人の心に響く記事を書くことです。そのために自分自身のアンテナをはり続け、さまざまな人に会って、その人たちの声に耳を傾ける。実際に自分の足を運んで、目や耳で確かめることをずっと大切にしていこうと思っています。
それから、仕事も大切ですが、将来設計をどうしていくのかをもっと具体的に決めていくことも目標ですね。転勤は今の仕事上宿命ですが、今後、仕事を続けながら結婚や出産などをどうするかを考えるとすぐに答えが出ません。
ライフワークの素潜りなどのアウトドアは一生楽しみたいです。

後輩のみなさんへのメッセージ

北大で過ごした日々の苦労や楽しかった思い出、あらゆる経験は今の私の力になっています。大学生活はさまざまなことに打ち込むチャンスに満ちていて、自分次第で選択肢はどんどん広がっていきます。人生を左右する出来事や出会いもたくさんあると思います。今、大学選びをしている人たちはどんな環境で、何を学び、身につけたいのかじっくりと考えてみてください。そしてもし北大文学部を選ぶのなら、この恵まれた環境で自分から行動して、よく学び、よく遊びながら自分にとって譲れないもの、こだわりを見つけてください。

(2017年9月取材)