仕事のプロセス視座は文学部の多彩な学びから

プロフィール

齊藤 遼 さん(北海道経済部経済企画局国際経済課勤務)
北海道札幌市出身。札幌市立旭丘高等学校卒業後、2009年4月に北大文学部に入学。文学部では歴史学・人類学コース/東洋史学講座*で中国古代史、特に春秋時代を中心に学ぶ。2013年3月に卒業。2013年4月に北海道庁に入庁。現在は主に道産品の中国への輸出拡大に向けた取組みを担当中。

*2019年4月の改組により、東洋史学講座は、東洋史学研究室となりました。

 

北大文学部を選んだ理由

高校の授業にて、北大の教養講座に1学期通しで参加する機会がありました。中学時代から中国史に関心のあった私は、東洋史学のゼミ形式の講座を受講し、そこで吉開先生の講義に出会いました。それがあまりに面白く、学問としての東洋史にすっかり魅了され、吉開先生のもとで学びたいと決心。これが北大文学部を選んだ理由です。大学1年生の吉開先生の一回目の講義では一番前の席に陣取り、先生に存在を主張しました(笑)。

文学部ではどんな研究を

中国古代史、特に春秋時代の「県」について研究し、都市国家から領域国家への形成における行政区画の発生について研究しました。

私が研究した時代は史料が多くないため、それまで研究つくされてきた文献の中で、どうすれば自分なりの切り口を提示できるか、何度も何度も同じ史料を読み込んで、気になる部分を抽出し、それらを組み合わせて、論文の構想を考えるのがこの研究の面白さでした。

北大文学部に行ってよかったですか

文学部では、歴史学だけではなく、考古学、宗教学、倫理学、文化人類学、心理学、文学等、人間に関する広範な学問に触れられる機会を得られたのは、視野を広められたな、と。また、おそらく1年次の必修科目が少ないので、教養授業の選択肢が多いです。自分は惑星科学など、興味のあった理系の入門編教養科目も履修していましたよ。

在学中、大変だったことは

卒業論文のテーマ決めは、かなり迷い、先生方にも大いに迷惑をかけました。それでも最後まで共に向き合って悩んでくれて先生には感謝しかありません。

これは笑い話ですが、あとはあだ名。齊藤なのですが、今は定年退職された三木先生から、当時、高橋というあだ名をいただきました。後輩や留学生は、最初、本名なのかあだ名なのか、大いに混乱。あれは失礼ながら面白かった。先生、先輩、後輩があだ名で呼びあえるような、フレンドリーで居心地のよい東洋史学研究室でした。

卒業後から現在までの道のり

大学時代に所属して活動していたNPO法人では、地域づくりに関わる人たちと接する機会が多くありました。そこで活躍するする人たちが熱意にあふれており、私も自分の生まれ育った北海道をもっと元気にしたいと思い、北海道庁を希望しました。

道庁入庁後は水産林務部林務局森林計画課を経て、4年目から外務省国際協力局国別開発協力第一課に出向し、ベトナム、インドネシア、中国、モンゴルへのODAを担当。その後、在上海日本国総領事館領事部にて領事業務に従事しました。現在は道庁に戻り、経済部経済企画局国際経済課にて中国との経済交流に向けた取組みを担当しています。

採用された当時は海外に関する仕事をすることになるとは全く思っておらず、正直にここまでのキャリアには驚きの連続です。海外との仕事は文化や風習も違いますし、もちろん日本の常識のようなものが通用しない世界で、日々自分の力不足を感じながらも、半歩ずつでも前に進めるよう、今、自分に何ができるか考えて実践する日々です。

現在のお仕事の内容

中国への道産品の販路拡大に向けて、中国で開催される展示商談会への北海道ブースの出展や現地の小売店や飲食店、ECサイトでの道産品のテスト販売など、道内企業の海外進出を支援する業務を中心に担当しています。

仕事の打ち合わせ風景。中央が齊藤さん。

大学で学んだことは今のお仕事に役に立っていますか

役にたっています。正直に言って皆さんが思うとおり、学問的な知識として学んだことが役に立つ機会はほぼありませんよ。しかし資料(データ)を集め、解釈し組合せ、意味を持たせ筋道立てて文章にする、というプロセスは仕事の基本ともいえる。仕事ではそこから実行して、検証するというプロセスが加わる感じでしょうか。もちろん対人関係も大事。仕事は机上で終わらないので、大学の間にいろんな人と出会って話をして、自分の門戸を開いておく。僕はその点は、苦手だったなぁと今になって少し後悔しています。

また文学部での多様な学びは自分なりの人間や世界(社会)に対する視座を形成する糧となりました。それが正解か不正解かわかりませんが、人間ってこういうところがあるよなとか、世界(社会)ってこういうふうになっているんだな、という自分なりの感覚です。それは、”人”に関する学問を修める文学部だからこそ養えたものと思います。仕事をしていると日々、大なり小なりの課題や問題とぶつかることになります。私の場合は機械やデータではなく、”人”が相手となる仕事ですので、より多くの判断材料となる情報を集めるなど、成果を得るために判断の精度を高める努力はできますが、判断の最終的な結果は最後まで予断できません。そのような中で頭を整理し、物事を判断する軸として、自分なりの人間や世界に対する視座というものが一つあると感じています。仕事をしていく中でも、それは日々変わっていくものですが、文学部に在籍したからこそ、その核のようなものが得られたものも多くあると思います。

今後の目標・夢

恥ずかしい気持ちもありますが、北海道に生まれてよかったな、北海道に住んでよかったな、北海道に来てよかった、そう思える人を一人でも増やすことです。道外から北大を志望される方も多いので、皆様にも僕の仕事は試されていますね。公務員の仕事って本当に多岐にわたるのですが、目標とか夢とか、根底にあるものを聞かれると、こういう回答になりますね。

後輩のみなさんへのメッセージ

就職のことを考え、世の中の風潮を見ると、文学部に入ることが先を見据えた正しい選択なのか、迷う人も多いと思います。でもそれよりも、自分が本気で打ち込めることがある場を選んだ方が、大学4年間で得られることはきっと多くなる。働いて多くの人に出会うと、熱量をもって仕事に打ち込める人は、学生時代にそれだけの熱量を発する経験があった人だと感じます。もし、あなたが情熱を傾けて学びたいと思うことが文学部にあるならば、文学部を選んだ方がいいと思います。

(2022年8月取材)