「プラス1ピース読書会Vol.18」開催されました

2025年10月28日、文学研究院「書香の森」にて第18回「プラス1ピースの読書会」が開催されました。今回取り上げたのは、田中佑実助教(文化人類学研究室)の著書『死者のカルシッコ フィンランドの樹木と人の人類学』です。

これまではお昼休みに開催されてきた読書会ですが、今回は“博士論文を書籍出版する”というサブテーマもお話しいただくため、通常より時間を15分間拡大して夕方に開催しました。

会場にはフィールドワークの写真や田中助教手描きのイラストなどが展示されました

最初に本の内容をご紹介いただきました。カルシッコとは、フィンランドにある樹木と人間のつながりを象徴する風習で、死者の印や没年、イニシャルを刻んだ樹木を指します。田中助教はカルシッコを学位論文のテーマにとりあげ、人類学の手法を用いて人と樹木のつながりを解き明かしてきました。その研究成果を書籍化したのが今回の本になります。

次になぜフィンランドに関心をもち、どのようにしてカルシッコと出会ったのかという研究の原点に関する話題提供がありました。また、田中助教は、修士課程までは美術史を専攻していましたが、博士後期課程から人類学に転身したことから、それぞれの分野の研究手法や成果の表現方法の違いについても述べられました。

お話は本作りへと進みます。本を作るきっかけは、学位論文を書籍化したかったこと、研究成果を研究者だけでなくより多くの人に伝えたかったこと、若手研究者のキャリアパスを考えたときに、単著業績があることは有利にはたらくことなどが挙げられます。

文学研究院の専門研究員向けの出版助成「楡文叢書」に申請し、外部査読者2名の査読を経て北海道大学出版会から刊行に至ったことが語られました。助成の申請前に北海道大学出版会の相談会に参加し、出版の方向性の助言をいただいたこと、本の制作過程で編集者さんとの密なやり取りがあったことが明かされました。編集者とのよい関係性をつくるための工夫についても考えを述べられました。

さらに出版後の反響について紹介がありました。書評、講演会、セミナー、大学祭での講演、展示とトークイベント、書店フェア、ポッドキャストでのトーク、CoSTEP(北海道大学科学技術コミュニケーション教育研究部門)受講生からの取材記事など、数多くのアウトリーチ活動が紹介されました。英語翻訳付きのオンラインセミナーでは、フィールドワーク先のご家族にも参加いただき、研究成果や参加者の反応を共有できたこと、出版後に現地を訪れ図書館に著書を寄贈できたことなど、調査地や調査協力者への成果の還元ができたという嬉しい報告もありました。田中助教からは、博士論文の執筆は終わりではなく、むしろ始まりであり、本を作る過程で研究や考察が生まれ、出版後はさらに広がり続いていくことが語られました。

今回のプラス1ピースのキーワードは「刺繍」
本の装丁に施された刺繍は、田中助教自らデザインし刺繍したものです。刺繍に込めた思いや編集者とのやりとりについて実物の刺繍を見せて説明されました。

質疑応答の後、田中助教によるフィンランドの民族楽器「カンテレ」の演奏で会を締めました。

プラス1ピースの読書会 第18回『死者のカルシッコ』動画版