2023/12/10

死者のカルシッコ

フィンランドの樹木と人の人類学
著者名:
田中佑実
文学院・文学研究院教員:
田中 佑実 たなか ゆみ 教員ページ

内容紹介

「死者の印」をもつ樹木、死者のカルシッコはフィンランドのサヴォ地方を中心にかつて盛んに作られた。死者を墓場へ帰すとされたこの樹木は、キリスト教の浸透、林業を基盤とするフィンランドの産業化、近代化による社会と人々の変容に伴いながら、死者を思い出すものへとその意味をかえ、次第に忘れ去られていった。風習が終わりつつある今、「エラマ(生)」をキーワードに、カルシッコとともに生きる家族の想いと暮らしを描く。

著者からのコメント

死者のカルシッコという言葉をどれくらいのフィンランドの人々が知っているでしょうか。かつてその土地で盛んにつくられたこの樹木は、今ではほとんど忘れ去られてしまっています。私がこの樹木に出会ったきっかけは、ある小さな本でした。数字やイニシャルが刻まれた樹木の写真が異様にページを占めていました。

死者のカルシッコは亡くなった人の生没年やイニシャルが刻まれることで、家に戻ってこようとする死者を墓場に帰すとされていました。これはキリスト教ルーテル派教会がサヴォ地方を中心とする人々の間で布教を始めたとき、死者と死後の世界に対する土着的な観念とのギャップを埋めるための、人々による工夫でもありました。時代の流れのなかで、この風習も少しずつ姿や意味をかえ、細々とですが今に伝えられています。

私は2018年から死者のカルシッコとともに生きる家族のもとでフィールドワークを重ねてきました。本書はその成果の一部です。近年、北欧フィンランドはムーミンやマリメッコ、サウナなど、日本の人々にとっても関心のある国となっています。その一方で、フィンランドのフォークロアや風習実践の事例、それに関わる研究はあまり日本で紹介されていません。
フィンランドでも忘れられつつある風習ですが、樹木や死者とともに生きるという点は、日本の私たちにとっても、どこか馴染み深いものとして映るはずです。これまでとは異なる視点から、フィンランドを知るきっかけとなれば幸いです。

ISBN: 9784832968929
発行日: 2023/12/10
体裁: 四六判・226頁
定価: 本体価格5800円+税
出版社: 北海道大学出版会
本文言語: 日本語

〈主要目次紹介〉

はじめに
序章

第一章 ユーカ
第一節 ユーカまでの道のり
第二節 北カレリア地方 ユーカ
第三節 カルシッコと繋がる家族
第四節 家族と繋がる樹木
第五節 家族と繋がる死者
第六節 家族と繋がる人々

第二章 木材としての樹木
第一節 産業と農業の発展
第二節 暮らしの中の林業
第三節 世代を超えて

第三章 魂から生へ
第一節 エラマを語る
第二節 尊敬とケア
第三節 死と死者とともに

終章

付録一 「超自然的」ガーディアン ハルティア
付録二 樹木と人の物語 SKSのアーカイブ資料から
あとがき