若手研究者支援セミナー2021「博士号、たとえばこんな、キャリアパス」開催されました

10月28日(木)に博士号取得後の多様なキャリアパスについて紹介するセミナーをZoomで開催しました。今回のセミナーは、博士号取得後の進路や学位取得後にどんなキャリアパスがあるのかよく分からない、と迷っている大学院生の方、学位取得後も研究を続けているけどアカデミックポスト以外のキャリアについても考えているポスドクや若手教員の方、さらに、今はまだ大学院進学、特に博士後期課程への進学を決めかねている、という方も含めた若手研究者とその卵の方向けに企画しました。

セミナーでは、北海道大学文学研究科(現・文学院)で博士号を取得した4名の方々にご自身が経験された学生時代や現在のご職業から、

  • アカデミックポストへのキャリアプラン例
  • アカデミックポスト以外へのキャリアプラン例
  • 社会人をして学問から短期間アカデミアから離れた後に、学位取得するキャリアプラン例
  • 留学生が日本で学位取得後に日本で就職した例

について、話題提供いただきました。
当日は、文学研究科・文学院・文学部所属の大学院生、学部生、研究生の方に加え教育学院や経済学院からも申込があり、21名の参加者がありました。

はじめに、司会の研究推進委員会研究支援専門部会長・宮嶋先生からセミナーの趣旨と話題提供者の簡単なご紹介がありました。続いて、話題提供者4名から学生時代やポスドク時代、社会人学生時代、留学生時代、そして現在に至るまでの多様な経験談をたくさんのスライドとともにお話しいただきました。質疑応答では参加者から寄せられたいろいろな質問に、笑いを織り交ぜながらより具体的な体験談やアドバイスをお答えいただきました。

(研究支援専門部会長_宮嶋先生)

最初の話題提供は「ある留学生の社会進出経験談」と題し、2017年度に博士号取得後、現在は朝日新聞社文化事業部で活躍中の閻 慧さん(映像表現文化論)にお話いただきました。

研究がしたくて大学院進学をした閻さん、在学中は博士号取得後の道としてアカデミックポストも考えており、チャレンジはしたけど、やっぱりアカデミックポストに就くのは難しい!という結論に至ったそうです。その後、社会に出て企業で働いてみたい、まずは日本で就職したい、という思いから帰国はせず日本で企業に就職する道にチャレンジし、現在は朝日新聞社で働いています。そんな閻さんからのアドバイスは、博士号取得後にはアカデミックポスト以外にも色々な道があること、まずはトライしてみること、そしてその際はなるべく難しい道から選んでトライしてみること、です。

(北大A-COLAでのご講演からバージョンアップ_閻慧さん)

2番手はアカデミアから、2015年度博士号取得(スラブ社会文化論)岩手大学人文社会科学部人間文化課程准教授松下隆志先生から「翻訳の経験から考える文学研究の多様性」について話題提供いただきました。

まず初めに、松下先生の専門である現代文学研究について、新しい学問領域のため自分の好きな研究が可能、どんな角度からも切り込めるメリットと、新しい領域ならではのデメリットとして研究手法が確立されていない、ということが紹介されました。続いて学生時代について、アルバイトをしたりロシアへ留学したりネットで新しいロシア小説を読んで翻訳をしていたことを話しました。そんな松下先生がアカデミックポストに採用される際に重要だった事として、科研費の研究成果公開促進に採択され博士論文を単著で出版できた点と後期1コマだけと少ないながらも非常勤講師(可能なら院生時代から始めた方がよい)をした点を挙げました。最後に、いざという時に新たな活路になることや様々なことに挑戦することで広がる可能性に加えメンタル面の安定のために複数の足場を持つことが大切である、というアドバイスがありました。つまり研究+アルファが必要であり、松下先生にとっては、このアルファが「翻訳」だった、ということです。

(学生時代に翻訳出版した『青い脂』書影_松下先生)

3つ目の話題は、大学院後期博士課程の途中で就職したのち復学し、社会人学生として研究を続け8年をかけた博士号をこの秋取得された、日東製網株式会社細川貴志さん(地域システム科学)の 「”研究”と”実践”~企業で働きながら研究を続けるということ」です。

博士号を取得することが人生の目標の1つだった、という細川さんが大学院の途中で就職することになったきっかけは、フィリピンでのフィールドワーク中に現地の人から「その研究は、どんなメリットがあるのか?」と問われたことだったそうです。ここから、”研究から実践”に舵を切り大学院を中退して現在の会社へ就職、その後フィリピンで6年間携わったプロジェクトを博士論文にまとめました。就職したことで本当にやりたい研究がみつかったこと、このプロジェクトのように企業じゃないとできない研究もあること、そういった研究にたどりつくためには自分の関心・能力と企業とのマッチングや自分は”何をやりたいのか”、”何に興味があるのか”を見極めることが大事であることを話しました。そして、大学院での研究は就職しても役に立つこと、むしろそこで磨かれる論理的思考力やプレゼン力、問題解決力といった能力を企業も求めていること、更に学部→修士→博士に進むにつれ得意なことが磨かれていくことを参加した大学院生・学部生に伝えました。

(博士論文の研究となったプロジェクトのJICA特集記事_細川貴志さん)

最後は、2008年度に心理システム科学専攻で博士号を取得された茨城大学人文社会科学部人間文化学科准教授の本山宏希先生から、「大学院在学中および博士取得後の生活を振り返って」と題した話題提供をいただきました。

北大OBの本山先生は、北大工学部卒業後に北大文学部へ進学、北大文学研究科(現・文学院)修士課程修了後に一旦就職してから2年後に博士後期課程に進学というちょっと変わった経歴や工学部出身で役に立ったこととして数字に抵抗がないこと、をまずは話しました。博士号取得後は専門研究員としてポスドク生活を送る中、研究室の事務員をしたり、事務職に従事していた大型プロジェクトの支援でドイツ留学をしたり、そんな中でも地道に研究を進めドイツ留学から帰国するタイミングで現在のアカデミックポストに就いたことが紹介されました。さらに、松下先生と同様に非常勤講師の重要性も述べられました。ただし、専門分野や地域にもよりますが、半期1コマと競争率がとても高かった松下先生とは対照的に、当時、北海道の心理学分野では非常勤講師のポストは難しくなかったそうです。

(博士後期課程~就職図_本山先生)

参加者からは、「留学からアカデミックポストへの経緯」や「才能に限界を感じること、感じた時の乗り越え方」「ライフイベントと研究の間で、どう折り合いをつけたのか」など多くの質問をいただきました。

また、セミナー後に協力いただいたアンケートには、「こうしたセミナーに初めて参加したが、面白かった」「大変勉強になりました」「今後の進路を考える上で参考になりました」「お話に大変励まされました」「とても参考に、そして前向きになりました」「また同様の内容のセミナーを開催していただきたいです」といった感想が寄せられました。併せて、アンケートでいただいた博士論文の出版や留学生の大学院生活についてのご質問には、話題提供者の方にご協力いただき参加者の方へアドバイスを共有しました。

文学研究院研究推進委員会では、今後も若手研究者向けに企画セミナーを開催します。興味のあるテーマがありましたら、ぜひご参加ください。