国際シンポジウム「効果的効率的外来種管理を目指して」/ International Symposium: Towards an Effective and Efficient Invasive Alien Species Management 開催されました

2019年8月3日(土)に人文・社会科学総合教育研究棟W203において国際シンポジウム: 効果的・効率的外来種管理を目指して International Symposium: Towards an Effective and Efficient Invasive Alien Species Management が開催されました。

プログラムの第Ⅰ部では、ニュージーランドのランドケアリサーチ研究所に所属するPhil COWAN氏とAl GLEN氏のニュージーランドやオーストラリアを事例とした講演に続き、池田透教授(地域科学研究室)による日本の現状と特にアライグマについての講演が行われました。

講演は日本語と英語の同時通訳がつき、参加者は外来種管理に関する最先端の情報に熱心に耳を傾けていました。

     

まず1つ目の講演はPhil COWAN氏による”Invasive Mammal Control and Eradication in New Zealand”で、ニュージーランドにおける外来種管理の現状についてアプローチや成功例、具体的な捕獲方法についての豊富な情報を分かりやすいスライドで説明しました。特に、過去半世紀で島嶼部における120を超える外来種を根絶させた例や商業捕獲や近代機器等を利用した効果的な害獣管理手法および新しく開発される管理手法について詳しい話が聞けました。また、ニュージーランドにおおける住民参加型手法として専門家だけではなく一般の人々からの情報収集と対応を効果的に進めるうえで有効なオンラインでの意思決定支援システム(Vertebrate Pest Control)や外来種における動物の福祉の問題についてもニュージーランドならではの先進的な取り組みが紹介されました。最後にニュージーランドは2050年までにポッサムやラット類、イタチ類などの害獣を完全根絶させることを目標にした”Predator Free 2050″構想があることが紹介されました。

2つ目の講演はAl GLEN氏による”Towards a Predator Free New Zealand”と題した、特に侵略的外来種の根絶に向けたこれまでの政策概要についてです。ニュージーランドにおける侵略的外来種の影響や根絶の歴史、根絶の成果としての環境的側面や社会・経済的側面について、1つ目の講演でCOWAN氏が最後に紹介した”Predator Free 2050″プログラムのほか、”Cape to City”プログラムや現在開発・研究が進んでいる新技術について分かりやすく話しました。侵略的外来種の影響については、在来種絶滅の一因になっていることや他の哺乳類に感染する病気の媒介、根絶することで在来種の増加が見込まれることをティリティリマタンギ島の多種多様な鳥類の繁殖成功例を紹介しながら話しました。その他、スコットランドのケアンゴーム山における広大かつ複数のエリアでのアメリカミンク駆除成功例やニュージーランド人物理学者Sir Paul Callghanによる外来種を取り除くことの重要性についての講義紹介、実用化が期待される遺伝子工学を用いた技術・罠、更にはAIの活用について話しました。最後にこういった活動の最終目的として在来野生動物の個体数や生態系機能の回復、それによる在来動物の福祉の充実について述べました。

最後は池田透教授による「外来アライグマ管理の現状と課題」と題した講演です。日本には2000種を超える外来生物がおり、特定外来生物に指定されて長いアライグマに対する取り組みについて紹介しました。アライグマは生態系や農作物へ被害を与えるため年々駆除数が増加しているにも関わらず、個体数を減少させるほどの数が駆除されてはいないため依然各地で被害を出し続けている外来生物であり、今後も継続的かつ効果的な駆除と管理が必要なことが分かりやすいグラフで示されました。最新の捕獲装置やモニタリングについても実際の動画や画像を提示しながら分かりやすく説明しました。また、All or Nothingになりがちな日本の対策についての問題点やニュージーランドにおいて効果的とされる一般の人たちによる目撃と通報、自治体の対応と専門家との協力体制をとる住民参加型が早期発見・早期対応では大切であることを話しました。

休憩をはさみ、第Ⅱ部の質疑応答では会場からたいくさんの質問がよせられました。限りある時間の中で、なるべく多く回答するため、まずは特に多かった質問から読み上げ、COWAN氏やGLEN氏が回答しました。その後、残り時間を確認しながら池田教授を交えて矢継ぎ早に会場からの質問に答えました。

日本の外来種管理に対するアドバイスとして、ニュージーランドやオーストラリアでは何が重要で大切なのかを考慮してリスクを検討したうえで優先順位をつけて対策を行っている点や、完璧な方法や道具がないことを前提に期待された効果の有無を確認・評価しながら改善していくこと、1つ成功例を出すことで社会的影響を大きくして次のステップにすることが大事なことが提示されました。また、ニュージーランドでは政府系予算でAIを利用した最先端の技術開発が進められており、そういった最新技術が無料で提供されることも紹介されました。

予算的にも外来種管理についてもまだまだ課題の多い日本の現状では、具体的な目標を設定してできるところから始めていき、戦略を練りながら改善していくことが望まれます。

質問を読み上げる池田透教授
質問に回答するCOWAN氏
質問に回答するGLEN氏

猛暑の中、学内外から70名近い参加者があり、盛況のうちに終了しました。