ゼミ得た知識、仲間、伝え方、すべてが教員としての糧となっています

プロフィール

林 伶美 さん(千葉県立高等学校 教諭)
北海道函館市出身。函館の遺愛女子高等学校卒業後、北大文学部入学。文学部では歴史学・人類学コースの日本史学講座にて、日本中世史を中心に歴史学を学ぶ。大学入学当初から社会科(地理歴史科・公民科)の教員免許取得を目指し、教職課程を履修。将来を見据えて、政治学など他学部開講科目を含め、社会科に関連する授業を多く履修する。4年次に千葉県の教員採用試験に合格。2014年3月卒業。
2014年4月より地歴公民科の教員として、千葉県の公立高校に勤務。現在は、2年生を担任。さまざまな校務も担当して充実した教員生活を送っている。

北大文学部を選んだ理由

家庭の事情で道内国公立大学への進学を目指していたので、北大を選びました。元々興味をもっていた日本史をどうしても学びたいという思いがあり、社会科の教員免許がとれることも加味して文学部を選びました。
日本史を学びたい思いで入学したので講座選択は迷いませんでしたが、コース選択で少々悩みました。歴史学・人類学コースと日本文化論コースとで悩んだのですが、カリキュラム上、社会科の教員免許がとりやすいコースは前者だということをコース説明会・講座説明会のときに聞いたので、前者に決定しました。

文学部ではどんな研究を

「室町時代足利義政期の幕府女房の働き」について研究していました。きっかけは、日本中世史のゼミで扱った史料です。高校で学んだ日本史では、少なくとも中世政治史においては、女性の動きがほとんど見られませんでした。このため、ゼミで史料を読み進めるうちに度々現れる女性たちの姿に興味が湧き、彼女たちが幕府の中でどのような人々と関わり、どのような働きをしていたのかを研究テーマに据えました。

北大文学部に行ってよかったですか

良かったと思っています。もっと言うなれば、日本史学講座を選んで良かったと思っています。日本史学講座は研究室メンバーの仲が良く、研究に関して先輩方や先生方に気軽に相談できる雰囲気があります。日本史学講座に入ってまず全員がとらなければならない授業として『原敬日記』を読むゼミがありましたが、このゼミは先輩の助けなくしては完走できません!ゼミのおかげで先輩・同輩・後輩と仲良くなれました。講座独自のカリキュラムが研究室内の協力体制を作るシステムとして機能しているのだと思います。研究が苦しい時でも、気分転換に付き合ってくれたり、一緒に考えてくれたり、支えてくれる仲間がたくさんできました。
さらに、隣の研究室である東洋史さんや西洋史さんともよく交流していました。私はサークル活動をしていなかったのですが、それでも人の輪がかなり広がりました。これも文学部に行ってよかったと思う点のひとつです。
また、自分の専門分野だけでなく、それ以外の分野についても学びやすい環境であったことがよかったです。私は日本史専攻でしたが、関連のある西洋史や東洋史はもちろん、文学や哲学などの授業もとれました。文系講義棟には文学部のほかに、教育学部、経済学部、法学部も集まっていますから、教職課程履修や他学部履修もしやすい環境です。
文学部は札幌駅からアクセスしやすいところに立地しているため、通学も比較的容易だと思います。授業後にショッピングにも行けます!気分転換ができるところが近くにあることは、研究を進める上でも大切です。食堂・購買や北大附属図書館本館も近いですし、ストレスフリーに研究を進めるための土台が整っていると思います。

在学中、大変だったことは

在学時の林さん。2013年豊頃町で実施された君尹彦(きみただひこ)氏文書調査時のもの。
日本史学講座の教員と学生が運営の中心となった資料調査団による調査活動が行われた。
5年間かけて10万点の史料の約半分にあたる目録を完成させた。

歴史学を研究する上では史資料批判が非常に大切になりますが、それが私は非常に苦手でした。どうしても内容をそのまま鵜呑みにしてしまうことが多く、橋本先生からもその点においてよく指導を受けました。ひとつの文言から自分なりの疑問や論を出しなさい、というように。ただ、ひとつ疑問が浮かび上がるとそこから数珠つなぎに考えが広がっていって、その疑問や考えをひとつひとつ追っていく作業は、根気が必要ですが楽しかったです。どうしても集中力が続かなくなった時には研究室の仲間と気分転換もできましたし、大変でしたが充実していたと思います。 研究とは別ですが、文学部棟と教養棟の行き来が大変でした。特に冬場は、吹雪になれば3m前すらも見えず、路面状況も悪くて、一本道を歩くだけなのに非常に苦労しました。その分、時間に余裕をもって行動するようになったと思います。

卒業後→現在までの道のり

学部4年のときに千葉県の教員採用試験に合格し、卒業後すぐの4月から千葉県の公立高校で地歴公民科の教員をしています。大学院にすすむことも考えていたのですが、せっかく採用試験に合格できたのなら教員としての研鑽をより多く積んでいきたいと思い、教職の道にすすむことを選びました。

現在のお仕事の内容

今年度(2016年度)は2年生の担任をしています。去年までは、地理Aと日本史Bの2科目を教えていました。3年目にして初めて世界史Bの授業を担当することになり、試行錯誤しながら教えています。私立校だとひとつの科目をずっと担当することが多いようですが、公立校だとオールラウンダーになる必要があります。
学年では、修学旅行担当を務めています。業者選定から報告資料作成、そして修学旅行に行って帰ってくるまで、修学旅行に関するすべての中心となる係です。また、教育相談係も務めています。主に、生徒と来校カウンセラーとの連携役です。もちろん、生徒から直接相談を受けることもありますが、これは係とは関係なく、教員として当然すべき務めです。 校務分掌は総務部です。式典の立案・進行や、PTAとの連携、ボランティア活動の推進、用具整備や清掃などの環境整備の中心となる部です。防災訓練やストーブなどの火器取り扱いも取りまとめています。
部活動では、茶道部の主顧問と陸上競技部の第3顧問を務めています。茶道はもともと高校でやっており、大学でも研究室OGの大先輩に習っていました。文化祭が一大イベントになるので、それに向けて、生徒と一緒に作法を覚えなおしています。一方の陸上は全く知らなかった世界で、むしろ私のほうが生徒から走り方を教わったりすることもあります。生徒たちの頑張る姿は見ていて飽きません。今ではテレビでやっている大会の中継なども興味深く見るようになりました。
教員の世界は非常に多種多様な専門家の集まりですから、積極的になればいくらでも、いろんな分野の情報が手に入ります。そうして得た話の引き出しを生徒との関係に活かしていくこともあります。日常で触れるもの全てが仕事に活かされていくのです。人の人生を左右することに重責を感じていますが、生徒の成長に触れて感じる喜びは大きいです。とてもやりがいのある仕事だと思います。

大学で学んだことは今のお仕事に役に立っていますか

もちろん役に立っています。専門知識そのものも当然ながら、その知識を得る方法、また、得た知識を他人にわかりやすいようにアウトプットする方法も、大学のゼミなどで学びました。特にアウトプットに関しては、「ある情報を、それを全く知らない人に対しても理解できるように説明しなさい」と先生方や先輩方からよく言われ、それを念頭に置いてレポート等を書くようにしていました。これが今でも「生徒が理解できる説明」を考えるのに役立っていると思います。できるだけわかりやすい言葉に置き換えたり、事実を曲げないように考えつつ情報の取捨選択を行ったり、どこでどの情報を使うか、といったことですね。口頭説明だけではなく、プリントやテスト問題を作る時も同様です。自分が100点満点うまくやれているとは思いませんが、生徒に授業アンケートをとると「説明や板書がわかりやすい」と答えてくれる生徒がけっこういるので、大学で養った力を発揮できているのではないかと思います。
また、研究室で多くの留学生の方々と交流できたのが大きな経験として役に立っています。地理の授業でよくエピソードトークをさせて頂きました。個人レベルの身近で楽しい繋がりを生徒に話すことで、生徒がある国や文化に対して持つ様々なイメージ、特に負のイメージを捉えなおすきっかけになればと思っています。

今後の目標・夢

生徒たちに前を向いて卒業していってもらいたいです。未来を創るのは他でもない目の前の子どもたちですから、なんとなく流されて生きるのではなく、自分なりの目標や意欲をもって歩んでいけるように生徒をサポートしていきたいと思っています。
また、教科指導力を上げることも目下の目標です。「学校の勉強なんて大人になったら意味がない!」というのは生徒が使う常套句で、私も高校生のときにはそう思っていました。しかし、知っていることが多ければ多いほど、世の中は違って見えて、ふとした身の周りのことでも面白くなることがたくさんあると今は気づきました。将来、面白さに気づかずスルーしてしまうなんて勿体ないことがないように、生徒が主体的に学習できるような授業を組み立てていきたいです。

後輩のみなさんへのメッセージ

私は文学部で様々な授業を受ける中で、自分が見てきたものを次の世代につなげたいと考えるようになり、教職の夢を確立させてきました。初めから教員になりたいと強く思っていたわけではなかったのです。色々なものを学んで、たくさん考えた結果、将来の明確な目標を見出すことができました。文学部志望の皆さんは、学びたいことや大学卒業後の進路など、明確な目標をもってそのように希望されているのでしょうか。そうだという方にとっても、まだ漠然としている方にとっても、文学部は自分の将来の可能性を大きく広げてくれる場です。多種多様な授業が展開されているのが、文学部の大きな強みです。この強みを活かして、ぜひ積極的に知識を吸収してください。専門分野に比重がかたむくのは当然かもしれませんが、もっと色々な分野の知識を吸収することで、広い視野をもった研究ができる上に、自分がどうありたいか、この先何をしたいのか、ということもはっきり見えくるでしょう。
教職を目指して文学部を志望されている方は特に、積極的に様々な授業に臨んでください。知識の多さは教員にとって大きな武器です。そうして勉学に勤しむとともに、研究室の仲間やサークルの仲間などと多くの交流をもって、充実した学生生活を送ってください。先生が充実した思い出を語ることが、生徒に将来への希望を持たせるカギのひとつになるはずです。大学で学んだことや感じたこと、体験したことは、すべて教育現場で活かすことができます。文学部でたくさんの学びと思い出を得て、一緒に次の世代を育てていきましょう!

(2016年8月取材)