博士後期課程に進学したからこそ、今の職場と仕事に巡り会えました

プロフィール

佐々木 三公子 さん(一般財団法人日本色彩研究所 研究員)
北海道札幌市出身。北海道大学文学部卒業後、同大学大学院文学研究科に進学。人間システム科学専攻・心理システム科学専修*にて、人の視覚認知における色の役割などを研究。修士課程修了後、民間企業での勤務を経て博士後期課程に進学。在学中に複数の大学にて非常勤講師を務める。2018年3月に博士(文学)を取得後、一般財団法人日本色彩研究所に研究員として在籍。

*2019年4月の改組により、文学研究科は文学院に、人間システム科学専攻は人間科学専攻に、心理システム科学専修は心理学研究室になりました。

北大文学研究科を選んだ理由

高校生のときに色彩検定という試験があることを知り、色彩が学問であることを知りました。独学で学んでいくうちに、色彩と人の心理との関わりについて深く学べる大学への進学を考えるようになり、そこで認知心理学領域で色彩について研究されている川端康弘教授の存在を知って北海道大学に進学しました。学部生時代を経て、自分が知りたいことについて実験を計画することや得られたデータの分析といった研究の面白さに気付き、もっと納得の行く研究がしたくなり大学院進学を決めました。

大学院ではどんな研究を

物体の色に関する既存の知識が、実際に見た物体色の記憶の変容にどのような影響を及ぼしているかについて研究しました。同じ色を見せた場合であっても、その色が何の物体の色なのか、その物体らしい色であるかといった違いによって、実際の色と記憶での色のずれに傾向が見られることを、オリジナルの実験刺激を使って検証しました。

博士後期課程への進学理由

色彩という分野の専門家になりたいと思ったからです。修士課程修了後に一度民間の会社に就職しており,退職して進学するという選択は経済面でも精神面でも大変なことが多くありました。しかしこれからの人生で自分がどういった位置で社会に貢献したいのか、自分が社会からどういった人物としてみなされたいのかを考えたとき,やはり認知心理学、かつ色彩について専門的に頼りにできる人物になることが納得できる道だと思い,進学を決断しました。

大学院に進学してよかったですか

博士後期課程に進学したからこそ、今の職場で研究員として働けていると思います。進学は簡単な選択ではありませんでしたが,苦しいときには同じ研究科の院生と励まし合いながらできたことは,研究を続けられた理由のひとつだと思います。

在学中大変だったことは

研究時間を確保しつつも、経済的に自立した生活を送ることです。両親にも多大に負担をかけたと思っています。在学中非常勤講師としても勤務しており、授業を行うことは自身にとって非常に勉強になりました。その一方で、研究室にいられる時間は限られているため研究を効率的に進める必要がありました。また学位取得後の進路が見えない不安も常にありました。しかしチャンスが来た時にはすぐ行動できるよう準備は整えておこう、という心持ちでいた結果、現職場に出会えたと思っています。

修了後から現職への道のり

博士論文を提出する年の9月に現在の職場が研究員の求人をしていることを知り、気合いを入れたエントリーシートを提出したことを覚えています。博士論文執筆の追い込みと、職場の選考が重なり大変でしたが、偶然にも学位論文の提出日に採用通知をいただくことができました

現在の仕事・研究内容

製品サンプルの色を視感測色するために色票を広げているところ

企業や自治体などの委託を受け、心理調査や実験から色彩についての効果等を検証することや配色の提案などを行っています。分野は食品や生活用品、景観など幅広く、今までの自分の研究では出会うことのなかった領域と色彩との関係について知ることができること、現代の社会で求められていることをすぐに調査できることが民間の研究所の強みでもあります。また嗜好色や配色イメージ調査といった研究所独自の研究や、北海道大学との共同研究である色の認知能力の可塑性に関する研究にも携わっています。

大学院で学んだことは今の仕事に役に立っていますか

役に立っていることしかありませんし、むしろもっとここを勉強しておけばよかったと思うときもあります。仕事では研究分野に関する知識はもちろん必要ですが、課題を解決するためにはどんな研究法・分析手法が適切か、新しい切り口は無いかなどオリジナルのアイディアが求められます。大学院では指導教員である川端先生が学生の自主性を尊重してくださり、自由な発想で研究をすることができたことが、アイディアを生む基盤となっていると思います。そのような研究環境であったことと、今までの経験を活かせる職場であることは、どちらもありがたい環境だと思っています。

今後の目標と夢

自分が携わった研究が色彩の効果として広く浸透する元となり、そして無意識にでも、使う人々の生活がより快くなるような空間やものづくりに繋がったら嬉しいです。また小さい子どもでも楽しめるような、感性的かつ機能的に便利なカラーシステムの開発・普及に関わりたいです。

これから進学する皆さんへのメッセージ

大学、大学院は知りたいことを「教わる」のではなく自分で調べて「解き明かす」場だと思います。これは自省でもありますが、研究としての世界の広さは自身の視野の広さと行動力にかかっています。そして北大は様々な研究活動に許容力のある大学です。不安と葛藤に悩むこともあるでしょうが、それすらも心理学の対象として面白がれば決して無駄ではありません。熱意を持って悔いのない研究生活を送ってください。

(2019年8月取材)