【学芸リカプロ】「企画展を装飾するギャラリートーク舞台芸術 ーアート紡ぐ古代の物語ー」8/26受講レポート

特論2:企画展を装飾するギャラリートークと舞台芸術 「アートが紡ぐ古代の物語」

ポスター

ソーゴー印刷(株)クナウマガジン 片山 静香

「OKHOTSKオホーツク―終りの楽園―」は、千数百年前に存在したとされるオホーツク人の女性首長”姫長”を描いた人形劇です。作家は沢 則行さん。本作品は人形浄瑠璃三人遣い、砂絵・切り絵、バロック音楽の生演奏を組み合わせ「フィギュアアートシアター」として上演されているものです。

フィギュアアートシアター終了後に行われたアフタートーク 人形劇師の沢 則行氏(舞台右)とアイヌ・先住民研究センターの加藤教授(舞台中央)の対談進行役は岡田 真弓 創成研究機構 特任助教(舞台左)

今回は、加藤 博文教授による考古学研究と劇との関連がテーマとして据えられ、対談も行われました。考古学史料と芸術表現の親和性もしくは創造性と、そこに生じる問題や“一般論”について考えさせられる内容でした。

沢さんの表現において考古学史料は着想のタネにすぎず、その先にどれだけ自由に、自分と客席が面白がれる形でイマジネーションを広げられるかが重視されているように感じました。ここでは必ずしも史実や一般論に完全一致させることは重んじられません。

同様に加藤教授からも、想像の世界で紡がれた物語が意外なところで実際の発掘や研究に活かされること、さらにはまだ発見されていない史実を予見する可能性も語られました。

重要だと思うのは、観客が何を求めて劇を鑑賞するのか。劇場の舞台上では、考古学史料の解説も、先住民と倭人の歴史背景も、物語を面白くするための予備知識のひとつにすぎません。研究成果(例えば水差し)をどういう切り口で見せるかを、場所やターゲット、モチーフ自体がもつ特性を考慮した上で適切に選び出すのが表現者(学芸員)の役割ということでしょう。まず観客に興味を持ってもらうことができなければ、表現の機会すらないかもしれません。研究への忠実さにこだわりすぎず、もっと柔軟に「表現として面白い」、「物語として面白い」を許容することができたら自分はどんな展覧会を創るのか。その良し悪しは現時点では判断ができませんが、視点を変えて考えることを純粋に面白そうだと感じましたし、そこに“美術館”にしかできない表現のヒントがあるように思えます。

大学院文学研究科修士課程1年 沼前 広一郎

今回の特論2はフィギュアアートシアターの上演とその後のアフタートーク、アートマネジメント講義(受講生限定)という内容で、札幌市こどもの劇場やまびこ座を会場として行われました。

フィギュアアートシアター「OKHOTSK-終わりの楽園―」は考古学で扱われるモノ・コトからインスピレーションを得て、人形劇師・演出家の沢則行氏によって製作されました。人形浄瑠璃三人遣い、バロック音楽の生演奏、砂絵などが組み合わされた人形劇の枠を超える総合芸術です。フィギュアアートシアターという形で表現される古代の世界に会場全体が引き込まれていました。

アフタートークでは考古学とアートがお互いにどのような影響を与えているかについて様々な話題が提供されました。沢氏、そして北海道大学アイヌ・先住民センター教授の加藤 博文氏の両者ともが強調されていたのは、想像力・創造性の大切さです。考古学は現在まで残っている過去の痕跡(資料)から論理的に過去の像を組み立てるわけですが、過去を語る際に、想像力・創造性が無ければ、論理的であり尚且つおもしろい過去の像を語ることはできないと思います。

ミュージアムの軸のひとつとして学芸員の研究の成果を展示として発信する場という役割があるわけですが、発信する相手としてはより広く一般の人々となります(論文とは異なる点です)。展示のストーリーを組み立てる際にも想像力・創造性が重要になるのではないでしょうか。

会場となった札幌市こどもの劇場やまびこ座の館長 矢吹 英孝氏からはやまびこ座の事例を基に、アートマネジメントについてお話していただきました。なかでも人形劇の文化を札幌で持続させていくために人材の育成に重点を置いているという点が印象的でした。実際に力を注がれているからこそ、重みのある話でした。

今回の特論は直接ミュージアムについて扱ったものではありませんが、ここで提供されたさまざまな話題はミュージアムの展示について考える際に非常に有用なものであり、本プログラムが掲げる目標のひとつである「企画力」のスキルアップのヒントになるものだと感じました。