【学芸リカプロ】「企画展立案:事例研究地方公立美術館の連携と展覧会企画」7/30川西由里氏の講義レポート

企画展立案:事例研究―地方公立美術館の連携と展覧会企画
講師:川西 由里氏(島根県立石見美術館 専門学芸員)

福田 絵梨子(苫小牧市美術博物館)

島根県立石見美術館の川西 由里氏は、青森県立美術館と静岡県立美術館の学芸員と共にキュレーションチーム「トリメガ研究所」を2008年に結成し、これまでにない展覧会のあり方を試みてこられました。今回の講義では、トリメガ研究所での活動を具体的な事例に、複数の公立美術館が連携した展覧会企画のあり方というテーマでお話いただきました。

トリメガ研究所がこれまでに企画した展覧会は、「ロボットと美術 身体×機械のビジュアルイメージ」(2010-2011年)、「美少女の美術史」(2014-2015年、以下美少女展)、「めがねと旅する美術展」(2018‐2019年)で、各展覧会ともにメンバーの所属館である三館を会場に開催されました。いずれの展覧会も3名の学芸員それぞれの異なる専門分野や活動領域を活かし、時代やジャンルを越えた多様な出品作品により構成されています。彼らはこうした活動の継続を通じて、美術館の展覧会におけるいくつかの枠組みを解体することへの挑戦をしてきたといいます。

一つ目は美術館が従来対象にしてきた「美術」という枠組みの解体です。トリメガ研究所企画の展覧会では、マンガやアニメをはじめ、大衆文化や科学など、他分野にまたがる「視覚文化」全般が積極的に紹介されてきました。さらに、展覧会ごとに制作される新作のアニメーションは、学芸員により企画されたものであり、ここには展覧会に学術性とエンターテイメント性を両立させようとする試みがあるといいます。

二つ目が、「巡回展というパッケージ」の解体です。美少女展以降、各館ごとの出品作品を大きく変え、会場ごとに章立ても変えるという試みがなされました。各館ごとに内容を組み替えることで、それぞれの持ち味を生かす試みであるといいます。

三つめが、「学芸員イメージ」の解体です。トリメガ研究所では自らをキャラクター化したSNSによる情報発信や、東京でのトークイベントに出演するなどの活動を積極的に行っています。今回のお話は、地方公立美術館の一般的な巡回展とは一線を画すものであり、まさに学芸員の企画力に支えられた事例であると強く感じました。