22 北大人文学カフェ「岐路に立つイギリス歴史から読み解く現在」開催されました

7月7日(土)紀伊國屋書店札幌本店1階インナーガーデンにて、第22回北大人文学カフェが開催されました。今回のテーマは、イギリス現代史。「岐路に立つイギリス―歴史から読み解く現在(いま)」と題し、話し手の長谷川 貴彦先生(文学研究科・西洋史学講座)が、スコットランドの独立問題やEU離脱など混迷するイギリスの現在(いま)を、長期的かつ「全体史」という歴史的視座から読み解いていただきました。当日は約85人の方にご参加いただき、お忙しい中、最後までお聞きくださいましたこと、改めてお礼申しあげます。

第1部では、まず戦後イギリスの外交構想であったチャーチルの「3つのサークル」について説明がありました。「3つのサークル」とは、イギリス帝国と英連邦という第1のサークル、太平洋同盟(対米関係)という第2のサークル、そしてヨーロッパという第3のサークルの交差するところにイギリスがあるという考え方です。長谷川先生は、この3つのサークルに、第4のサークルとして「複合国家としてのイギリス」を加えます。この4つのサークルより現代イギリス、特に1970年代以降のイギリスを読み解くことができると話しました。イギリスはブリテン連合王国(United Kingdom)という複合国家として成立しました。スコットランドなどの諸地域はこれまで、英帝国という枠組みの中で、その帝国への帰属による利点を重視し、みずからの独自性を表に出すことはほとんどしませんでした。しかし、かつての帝国が縮小する中で、帝国への帰属が必ずしも利点とならなくなった時、スコットランドの独立問題に象徴されるような地域ナショナリズムが勃興することになったと説明がありました。

話し手の長谷川 貴彦 先生 チャーチルの3つのサークルについて説明しています

次に、戦後のイギリスは保守党と労働党の二大政党制で有名ですが、長谷川先生は、政権交代ではなく、政党を超えて存在する両党の「コンセンサス」の変容に着目します。第2次大戦後、世界を先んじて進められたイギリスの福祉国家政策は、政権が交代しても変わらず維持されていました。ところが、1980年代、サッチャー首相の保守党政権による新自由主義政策が福祉国家政策にとってかわると、その後の労働党政権下でもこの新自由主義的政策が維持されることとなりました。福祉国家から新自由主義へのコンセンサスの転換が、イギリスの大きな転換点であったと長谷川先生は説明しました。

そして、社会的変容として、イギリスの伝統的な階級社会が、戦後の福祉国家政策を経て、中産階級の増大に伴い変容し、ジェンダーや民族、地域などの階級でないアイデンティティを重視する多文化主義の高まりについて説明がなされました。

このような戦後イギリスの変容があいまって、イギリスは2010年代に、スコットランドの独立投票やEU離脱をめぐる国民投票、そして二度の国政選挙の実施という大きな岐路に立つことになったと長谷川先生。この大きな歴史的分岐点に立つイギリスが今後どこに向かっていくのかを考える場合もまた、4つのサークル、コンセンサスの変容、多文化社会と階級社会という視座から総合的に読み解くことができると説明され、第1部が終了しました。

聞き手からの質問に応答し、参加者の理解をさらに深めます

第2部のQ&Aコーナーでは、イギリスのジャーナリスト、O.ジョーンズのノンフィクション『チャヴ―弱者を敵視する社会』という著書についての質問から始まり、イギリスの政党政治や「サッチャリズム2.0」、イギリスの地域ナショナリズムまで、第1部の内容をより深く解説していただくことができました。戦後の政治的動向が文化に与えた影響は、との質問には、1960年代のミニスカートやビートルズに象徴されるイギリスのカルチュラル・レボリューションを担った世代が、戦後イギリスの福祉国家の恩恵を受けた世代であるとの説明がなされました。ここでも政治と文化を総合的にみる全体史的視座がうかがわれました。

会場から寄せられた質問カードを、長谷川先生と長谷川ゼミのゼミ生たちがテーマごとに分類していきます。
熱心に耳を傾ける参加者の方々

最後にまとめとして、長谷川先生から歴史学を学ぶ面白さについてコメントをいただき、大盛況の中、終了となりました。

目の前で起こっている出来事をより深く理解するために、史的な観点、特に長期的で全体史的な視座から読み解く面白さを知ることができた1日となりました。