文学部同窓会、文学研究科が楡文賞受賞記念講演会を開催

文学部同窓会では、楡文賞を設け、社会的に高く評価される業績や活動を通じて北海道大学文学部・文学研究科の名誉を高めた者(応募時40歳以下)を顕彰しています。平成27年度は、松下 隆志さん(日本学術振興会特別研究員PD)と、マイエル・イングリッドさん(言語文学専攻博士後期課程修了)の2名が受賞されました。授賞式は3月24日(木)に学術交流会館第一会議室で開催の文学部・文学研究科卒業修了祝賀会の席上において行われました。

yubun_jushoshiki
授賞式(左からマイエルさん、望月 恒子副学長、松下さん)

翌25日(金)には人文・社会科学総合教育研究棟6番教室において「楡文賞受賞記念講演会」(主催:翻訳ワークショップ・シンポジウム企画委員会、後援:文学研究科・文学部同窓会)が開催されました。

開会の挨拶では、副学長の望月 恒子教授から楡文賞の選考経過と受賞理由が述べられました。松下さんは、ソローキンを中心とする現代ロシア文学の翻訳と研究、マイエルさんは、さっぽろ人形浄瑠璃芝居あしり座と現代演劇の海外公演、現代日本文学のハンガリー語への翻訳出版を通しての国際交流が評価されました。

松下さんの講演「ウラジーミル・ソローキンの小説世界」では、ロシア文学を学ぶために大阪から北大に入学し図書館でドストエフスキーを読みふけったこと、ロシア文学を本格的に学ぶなかで現代ロシアを代表するポストモダン作家・ソローキン(1955-)の小説との出会いがあったこと、難解なロシア語表現を日本語に翻訳しながら、ソ連崩壊後の現代ロシア文学を展望するに至ったことなどが述べられました。モスクワ・コンセプチュアリズムと関わって芸術活動を開始し、グラフィックデザイン・絵画で芸術家としての作品を手がけ、小説では『行列』をフランスで刊行(1985年)。この作品は会話のみからなり、記号であることばが長い行列として示され、視覚的な面白さが表現されています。『ノルマ』(1979-84年執筆)ではことばが崩壊していく様が視覚的に表現されます。『ロマン』(1985-89年執筆)は19世紀リアリズムの世界を再現しながら「長編(ロマン)」の死を宣告した作品、『青い脂』(1999年)はSF的な枠組みの中で言語実験や古典文学のパロディをふんだんに盛り込んだ20世紀ソローキンの総決算となる作品。21世紀に入ってからは『氷』三部作(ブロの道、氷、23000)を発表するに至る旺盛な文学活動が紹介されました。現在、ソローキンの最新長編『テルリア』の翻訳を「早稲田文学」に連載中であり、4月からは京都大学文学研究科において現代ロシア文学研究を推進されるとのことです。今後の活躍が期待されます。

yubun_2
ことばが崩壊して行く様を文字で表現したソローキンの作品

マイエルさんの講演「現代演劇と人形浄瑠璃における国際交流」では、ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学(ELTE)で日本語と日本の文学と文化を学び、ELTE客員教授をされたことがある石塚 晴通教授(現在、名誉教授)を頼って北海道大学に留学し、日本古典文学の研究を進めるかたわら、さまざまな文化活動、現代日本文学の翻訳にかかわることになったいきさつが述べられました。講演冒頭では、人形浄瑠璃芝居あしり座の皆さんによって「東海道中膝栗毛 卵塔場の段」が演じられ、人形とは思えない表情の変化とコミカルかつダイナミックな所作に参会者は感嘆しました。

yubun_3
東海道中膝栗毛 卵塔場の段

あしり座では外国人として初めての座員となったことや海外公演のコーディネーターなどをつとめたこと、現代演劇では旧TPS劇団(現札幌座)の初の海外ツアーを行い、札幌劇場祭(TGR)で4年間審査委員、昨年は札幌座ドラマトゥルクをつとめたこと、現代日本文学の翻訳では高見広春『バトル・ロワイアル』の翻訳公募でチャンスをつかんで、これまでに5冊刊行されたこと、そしてまもなく村上 春樹『風の歌を聴け』が刊行予定とのことが披露されました。マイエルさんは、4月にハンガリーに帰国されます。帰国後も引き続き、日本の芸術文化をひろく研究・紹介されることが期待されます。

yubun_4
前列右より楡文賞受賞者のマイエルさんと松下さん、楡文賞選考委員の北里 和彦氏、
後列右よりマイエルさんの指導教員池田 証壽教授、ロシア文学が専門の大西教授、石塚 晴通名誉教授