〈Hokkaido Summer Institute 2023〉「侵入生態学原論2023」開催されました

7月31日~8月4日の5日間、Hokkaido Summer Institute 2023 / Hokkaidoサマー・インスティテュート2023開講科目、Social Ecology: Principles of Invasion Ecology 2023/ 社会生態学: 侵入生態学原論2023が完全対面で開講されました。

在来種の減少や人間への健康被害等、生態系や人間社会への影響が深刻な問題となっている侵略的外来種について新聞やテレビで取り上げられるようになってからだいぶ経ちます。しかし、日本を初め残念ながら根本的な解決には至っていないのが現状です。本科目は、主にニュージーランドや日本での侵略的外来種の侵入状況や被害の実態と併せて、その原因と対策への理解と知識を深めることを目的として学部生向けに開講しており、今年で6回目を迎えました。講師を務めるのは、2017年に本科目を開講して以降(2020年はコロナ禍のため中止)、毎年招へい講師としてお招きしているニュージーランドLandcare Research (Wildlife Ecology & Management)所属の研究者Al GLEN先生です。今年の夏もたくさんの画像や動画を利用して侵入生態学についての基礎知識をニュージーランドやオーストラリア、日本の事例を紹介しながら講義を行いました。

海外招へい講師のアル・グレン先生(ランドケアリサーチ研究所・ニュージーランド)

5日間にわたる集中講義の始めとして、まずはAl先生の自己紹介に続きランドケアリサーチ研究所についての紹介と最先端の研究についての話がありました。Al先生は、主に哺乳類の侵略的外来種が専門で、オーストラリアでは野猫や野狐の影響、制御と監視、捕食者との関わりについての研究を行い、ニュージーランドではポッサムやオコジョ、ネコを対象とした研究や島という環境下での外来種管理の現状と対策、カメラや犬を活用した監視手法についての研究を行っています。Al先生の自己紹介に続き、今度は受講生から所属大学と自身の研究分野についての自己紹介が行われました。

第1回目の講義は、”What is an invasive species?”という問いを投げかけることで受講生が、ここで改めて「外来種の全てが侵略的ではないこと、侵略的な種の全てが外来種ではないこと」について気付くことから始まります。鳥や蝙蝠のように空を飛んで移動する生物や、種のように水面に浮かびながら移動する植物のように自然による侵入は常時起きており人間が旅をしたり貿易をすることによる侵入は500年前ころから始まり200年前に急増していることが分かっています。また、オーストラリアのディンゴやニュージーランドのナンヨウネズミのようにヨーロッパ人が来る前に海を渡った先住民の先祖によってもたらさた外来種に対し、大航海時代以降に世界中の島々に放たれた山羊や豚、ウサギのほか船に乗り込んだげっ歯類のような外来種との違いについて学びます。更に、英国からニュージーランドへ動植物を移入することで生物相を第一次産業的・植民地経営的視点で利益が上がるように改変した順化協会による世界各地での生態系破壊という19世紀から現在に続く負の影響や、外来種を持ち込むことで生物管理をしようとして失敗した奄美大島のマングースのように在来種が危機に瀕する例が紹介されました。授業ではニュージーランドやオーストラリア、日本のほか南米やアフリカなど世界中で喫緊の課題になっている絶滅危惧種や様々な侵略的外来種による問題について豊富な例を参考に「外来種とは?」「侵略的とは?」を考えながら有効な対策について考えました。

今年も対面での授業となり、講師は学生の反応を見ながら進み具合を調整。授業時間外でも分からないことがあればメールで気軽に質問するよう促すことで、所属大学や専門分野が異なる履修者の多様なバックグランドに配慮しながらも学生全体の理解度が高い講義になりました。

集中講義期間中は毎日2~4限の3コマ講義が開講され、その日の最後の講義では理解度を確認する小テストを昨年・一昨年に続き出題。問題を解いた後は、Al先生と池田先生による答え合わせと解説が行われました。クイズ10問で構成される小テストを利用した復習を毎日行うことで、学生は講義内容をより深く理解することが可能になります。

今年は海外の大学からも多くの学生が参加、北大生にとっても通常の授業ではなかなかか機会のない英語で講義を受けたり交流することができ、貴重な経験になったようです。

侵入生態学の最前線で実際の対策現場にも携わる世界の第一線で活躍する研究者を招いて英語で行う本科目ですが、責任教員としてAl先生と協働で授業を実施してきた池田透教授(地域科学研究室)の退職に伴い来年夏の開講は一度お休みし、2025年夏以降の再開を予定しています。