カルガリー大学生が書香の森展示および総合博物館を見学

2023年6月14日、カナダ・カルガリー大学の林直孝准教授(社会人類学)が引率する同大の学部生22名が書香の森展示「ヒグマのとなり ←つかず、はなれず→」(展示期間2023/5/26-8/6)を見学しました。彼らは、主にアイヌ民族の歴史と文化を学習する目的で北海道を訪れており、その一環として北海道大学を訪問しました。

一行は、立澤史郎特任助教(文学研究院 地域科学研究室)の案内で書香の森を訪れ、本展示を企画した中心メンバーの一人である博物館学研究室4年生の石本万象(いしもと ばんしょう)さんから解説を聞きました。

解説中の石本さん(写真奥) 
解説中の石本さん(写真奥)
人間とヒグマのすみわけについて学ぶ
人間とヒグマのすみわけについて学ぶ

近年、北海道ではヒグマの目撃情報や人身事故についての報道が多くなされていますが、ヒグマにも人間と同じように個性があり、人を襲う凶暴なヒグマばかりではないと石本さんは話します。アイヌ文化では、畏敬の念を込めてヒグマを「キムンカムイ」(山の神)と敬う一方で、人を襲うヒグマを「ウェンカムイ」(悪い神)と呼んで区別します。

立澤特任助教によると、札幌近郊でヒグマと人間の接触が増えているのは、ヒグマの増加だけでなく、増加したシカとヒグマの間での食べ物(植物)を巡る競合、人間の出す生ごみや農作物による誘引、ヒグマの生息地と都市の間に田畑などの緩衝帯がなくなっていること、そして、コロナ禍を経て人間や車を恐れないヒグマが出現していることなど、多様な要因が絡んでいるそうです。

カナダにもヒグマの一亜種であるグリズリー(ハイイログマ)が生息することから、参加者のヒグマ問題への関心は高く、「人を襲ったクマは人間の味を覚えてしまうので、カルガリーでは必ず駆除するが北海道ではどうか?」という質問が投げかけられました。

この質問に対して立澤特任助教は、北海道でも人を襲うなど有害性が高い個体は駆除しており死亡事故は稀だが、近年人身事故件数が増えている。この背景には、30年間ヒグマが保護され続けた一方、狩猟者の数が減少しているという問題もあると答えました。また、人を襲うヒグマは極めて少数なので、キムンカムイとウェンカムイを見分けることのできる専門家の養成が急務であるとも言います。

このほかにも、様々な質問やコメントが寄せられ、大学院生の研究発表の場としての書香の森展示が見学者の視点と交差し、大変有意義なディスカッションの場となりました。

立澤史郎特任助教(写真3列目左端)、石本万象さん(同1列目中央)、林直孝准教授(同1列目右端)
立澤史郎特任助教(写真3列目左端)、石本万象さん(同1列目中央)、 林直孝准教授(同1列目右端)

書香の森展示を見学後、一行は総合博物館を訪れ文学部展示等を見学しました。立澤特任助教から、ロシア・サハ共和国の人々との交流エピソードやトナカイの生態調査のために必要な発信機の装着方法など臨場感たっぷりの解説を聞き、「文学部なのに、動物研究がこんなに盛んだなんて!」という感想を述べる学生もいました。また、文学部でシベリアの先住民族との交流が続いていることを知り、ヒグマとの共存についてアイヌなど北方先住民族とも情報交換すべきだなど、書香の森展示と総合博物館の両方の情報が有機的につながった議論も行われ、実り多い交流の機会となりました。

文学部展示を見学
文学部展示を見学
サハ共和国の人々から贈られた品々の解説
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