【プラスミュージアムプログラム】1112日公開シンポジウム「財政をとりまくブラックボックス」開催報告

財政をとりまくブラックボックス

開催日時:11月12日(土)13時00分〜16時45分
開催場所:北海道大学 人文・社会科学総合教育研究棟W202教室 ※オンライン配信併用
パネリスト:
 後藤 和子(摂南大学 経済学部 教授)
 平井 宏典(和光大学 経済経営学部 教授)
 高井 健司(地方独立行政法人 大阪市博物館機構 事務局次長)
コーディネーター:
 佐々木 亨(北海道大学 文学研究院 教授)
 卓 彦伶(北海道大学 文学研究院 特任准教授)

<ミュージアムをめぐるアナリシス>の第3部「財政をとりまくブラックボックス」では、財政学が専門の摂南大学・後藤和子教授、経営学が専門の和光大学・平井宏典教授、そして地方独立行政法人 大阪市博物館機構・高井健司事務局次長を講師にお招きしました。

博物館運営に関する収支を、みなさんはどれくらい知っているでしょうか。実は、そもそも知る機会が極端に制限されています。しかも、収支が公開されている公立博物館でも、自治体ごとに記載項目が異なっていて、実態はわかりにくいです。まさに「ブラックボックス」のような博物館財政の中身を明らかにしていこうという研究が、財政学や経営学でいま進んでいます。それによって、どんな経営シナリオが描けるのか、また財政状況を変えるどんな資金調達方法があるのかを議論していくという趣旨で開催しました。

まず、コーディネーターの佐々木からこの回の目的と位置付けを説明したのちに、新しく事業を起こす際のすべての目印となるように作成した、プラス・ミュージアム・プログラムの「旗」の紹介がありました。

最初の報告者の後藤氏は、2000年ぐらいから博物館の役割が変化してきているという前提を説明した上で、本来は博物館の財政はその役割と呼応するはずであるが、日本の状況はそうなっていないだけでなく、そもそも各館の財政が不明の場合が多いという現状を説明しました。一方で、財政学(経済学)からみた博物館は混合財(公共財的性質と私的財的性質をあわせもつ)であるために、明確な財政モデルが必要であると述べ、アメリカの博物館の収入構造や今後検討すべき資金調達方法に関して報告しました。

次の報告者である平井氏は、財政が不明の場合が多いという後藤氏からの指摘をさらに詳細に報告しました。対象とした都道府県立博物館289館の公式サイト上にて年報等の形式で財務情報を公開している館を調査した結果、42館しか歳入(収入)と歳出(支出)の記載がないということがわかりました。その上で、自己収入対経常比率 = 自己収入 ÷ 経常費用 × 100 を計算したところ、中央値が19.00%ですが、最小値1.95% 最大値72.00%であり、分散が大きいことがわかりました。なお、調査の前提として「この比率が高い=優れた博物館経営」ではないことを強調しました。

最後の報告者の高井氏は、2019年4月1日に日本で初の博物館を設置及び管理する法人として設立された、地方独立行政法人大阪市博物館機構の直接管理下にある5館の財務諸表等を公表していることを説明しました。その上で、平井氏が示した自己収入対経常比率を館ごとに算出した結果、コロナ禍前の2019年度は15.5%から65.3%と散らばっていることを示しました。また、2019 年度は事業損益として約1億7千万円が規定に基づき承認され、 剰余金として計上できたことも紹介しました。

後半のパネル・ディスカッションは、佐々木の司会進行で、本プログラム卓彦伶特任准教授によるフロアやzoomからのコメント・質問の紹介を並行しながら進みました。

人件費など、そもそも公立博物館では公開されにくい項目があること、また館によって記載項目が異なり簡単に比較できないなどの課題があることがわかりました。一方で、財政状況を明確に公開するメリットとして、博物館側の事業実施に向けた強い意思を示すことができる、併せて剰余金を館として使う根拠にもなるという意見がありました。また、財政状況は同館種との比較に使う「よこ軸の議論」だけでは不十分で、各館の歴史的側面や経年変化を踏まえた、適正で明確な目標を伴う「たて軸の議論」も必須であるとの発言がありました。

佐々木 亨(文学研究院 教授)