学芸リカプロ受講生レポート講義4-1「資料とアーカイブ」6/24 山下俊介氏の講義レポート

資料とアーカイブ: 持続的なアーカイブを目指して
講師: 山下 俊介 氏(北海道大学総合博物館助教)

小樽芸術村 山田菜穂

北海道大学総合博物館助教の山下俊介氏より、「博物館資料とアーカイブ:持続的なアーカイブを目指して」という題でお話をいただきました。

「アーカイブ」という言葉は、資料そのものや資料の保存行為、資料を保存する機関といった主体やその保存庫、そして資料を用いた活動までもを指す場合があります。
伝統的な「アーカイブ」は、「資料に証拠性があるかどうか」に主眼が置かれてきました。組織の活動の証拠となる資料を記録管理し、その中で永久保存価値がある資料群をアーカイブといいます。
また、アーカイブの中にも、一例として、証拠性や業務上の記録の保存に重点が置かれた「機関アーカイブ」や、他にも特定のテーマなどについて取捨選択を行いながら情報が集められた「収集アーカイブ」などがあり、アーカイブという語が指す意味や機能、活動は非常に多義的であるといいます。
しかし、いずれの場合にも、資料や情報の出どころに基づきそれらを一体的に保存する「出所原則」と、資料群の秩序を尊重する「原秩序原則」にのっとって管理を行う必要があります。
また、「学術資料アーカイブ」には、研究者が残したノートなどの記録資料や、標本資料などがあり、そこには多様な情報が含まれ、学術資料アーカイブは埋蔵資源でもあるといえます。そして以上の情報群を整理した結果、完成するアーカイブ自体だけではなく、その過程も重要な成果であると山下氏は示されました。

今回の講義で特に印象に残ったのは、2018年に北海道大学総額博物館で行われた企画展「視ることを通して」における、「まずは資料を展示公開し、その存在が認知されることで研究が進んでいく」という資料活用の事例でした。
扱う資料や展示分野の範囲が広いミュージアムでは、すべての資料にその分野を専門とする学芸員がついているとは限らず、資料の研究や活用がうまくなされないといった状況もあるかと思います。そういったときに、資料を「まずは公開してみる」ことを研究の切り口とするのも有効なのではと感じました。
今回の講義は、自館の資料の今後の活用を考える上で、有用な示唆を与えてくれる学びの機会となりました。

 

札幌文化芸術交流センター SCARTS キュレーター 樋泉綾子

「アーカイブとは何か」という問いから始まった本講座では、90年代から始まった各分野でのデジタルアーカイブの取り組みを紐解きながら、現在「アーカイブ」として捉えられる事象の多義性が紹介されました。その上で、資料の「証拠性」を価値とする「機関アーカイブ」(組織の公文書等、自然発生的な記録)と、資料が持つ「コンテクスト」の情報に重きをおく「収集アーカイブ」(組織が積極的に収集する資料)という基本的なアーカイブのあり方が示されました。

 ミュージアムの活動において、資料のコンテクスト、つまり来歴や背景は、個々のモノが持つ固有のストーリーとして、そのモノの価値に影響し、展示で紹介する際の「切り口」となり得る重要な情報です。一方、ミュージアムの現場においては、資料にまつわる情報を、どのような観点で、どのような方法(実物かデータか)で記録・保存するのか、ということは、物理的な保存スペースや作業量の問題をともなう恒常的な悩みです。アーキビストの仕事は「捨てるものを選ぶ」ことである、という指摘にも納得できます。

 こうした状況を鑑みると、アーカイブはその活用のための具体的ビジョンが設定されていないが故に中途半端に終わりがちである、という講師の指摘は重要です。講師は北海道大学総合博物館での「視ることを通して」展において、学術的な分類とは異なる直感的な分類によって、同館の多様な学術資料アーカイブコレクションを紹介するとともに、資料をモティーフにした映像作家の作品を展示しました。活用という「出口」が見えないままでは整理・研究が進まないアーカイブ資料を、まず一般に展示・公開することで存在を認知してもらい、継続的な研究の糸口をつくるという提案です。「保存」という名の「死蔵」が起こりがちなミュージアムにおいて、資料を人々に開いていくことを通して価値をつくっていくという考え方を示していただき、今後の自身の活動への示唆を得ることができました。