【学芸リカプロ】「企画展立案スキル(6)会場ディスプレー制作の現場から」12/10 高橋 渉氏の講義レポート

会場ディスプレー制作の現場から
講師:高橋 渉 氏(株式会社 伏見工芸)

北海道立近代美術館 西田 真

本レポートでは、12月10日に行われた学芸員リカレントプログラム講義3「企画展立案スキル(6)会場ディスプレー制作の現場から」の内容について報告します。関西を中心に数多くの展覧会で会場造作を手掛けている、株式会社伏見工芸の高橋 渉氏を講師に迎え、前半では過去に伏見工芸が手掛けた展覧会造作の事例紹介について、後半では会場造作における学芸員との協働についてお話しいただきました。

事例紹介では「江戸の戯画―鳥羽絵から北斎・国芳・暁斎まで」「ボストン美術館所蔵 俺たちの国芳・私たちの国貞展」「ルーヴル美術館展」「ボストン美術館展」という4つの展覧会が取り上げられました。前者2つの展覧会では、展覧会コンセプトを造作に落とし込むまでを流れを追い、後者の展覧会では、彫刻作品の免振対策や仮設壁面の補強など作品の保全にかかわる工程について学びました。

講義の後半では、会場造作を学芸員とどのように進めていくかが話題となりました。高橋先生によれば、最近の展覧会における会場造作は、仕様書の送付やコンペティションといった書面のやり取りだけで進んでしまうものも多く、学芸員のコンセプトを細かく反映した会場造作には、やはり顔を合わせたコミュニケーションが大切になるとのことでした。共に一つの展覧会を作るという「協働」が、非常に大切なものなのだと、改めて考えさせられました。

今回の講義を受けて、「展覧会を見る」ということの意味、さらに言えば「実物を見る」ということの意味をもう一度考え直さなければいけないと感じました。昨今の社会は様々な面でデジタル化が進み、私たちは文字や画像をはじめとした膨大な情報を瞬時に手に入れることができます。このような時代だからこそ、作品がもつ生の魅力を伝えるという美術館の役割も大切なものとなります。そして「何を見せるか」ということと同様に、「どのような空間で見せるか」という点も非常に重要だと考えられます。展示する作品に合わせて、趣向を凝らした空間をしつらえるためには、会場造作がもつ役割も今後さらに重要な要素になることでしょう。