【学芸リカプロ】「企画展立案:事例研究館蔵コレクションを活かす展覧会」7/30實方 葉子氏の講義レポート

「企画展立案:事例研究―館蔵コレクションを活かす展覧会」
講師:實方 葉子氏(公益財団法人泉屋博古館 学芸課長)

熊谷 麻美(北海道立釧路芸術館 学芸員)

住友家のコレクションから成る泉屋博古館が、館蔵品をきっかけに他の施設と連携しながら調査・研究を進め、好評を集めた2件の企画展「木島櫻谷―近代動物画の冒険」(2017年。以下「櫻谷展」と表記)、「高麗仏画―香りたつ装飾美」(2016年、以下「高麗展」と表記)についてお話いただきました。

「櫻谷展」は、櫻谷作品を所蔵している泉屋博古館が公益財団法人櫻谷文庫の依頼のもと、共同で調査実施したことが契機となった展覧会です。2013年に櫻谷の没後75周年を記念した展覧会が開催されましたが、この展覧会を通じてさらに櫻谷作品に関連する情報が集まり動物画の調査進展したことで、2017年の櫻谷展が実現しました。櫻谷展の会期中は櫻谷文庫、京都文化博物館でも櫻谷に関係する展覧会を開催し、来館者が3館を巡ることで京都をフィールドとする櫻谷の画業が点から面へとつながる展覧会となりました。コレクションが画家の再評価につながり、関係者のネットワークの形成にまで至った例です。

また高麗展は、泉屋博古館が所蔵する高麗仏画史における重要な基準作、水月観音像を修復したことが契機となりました。修復に際して水月観音像の類例を調査する中で、同じく高麗仏画を所蔵する根津美術館との関係が構築され、共同で展覧会を行うこととなりました。両館とも展示空間に限りがあることから、現存作例の少ない高麗仏画の中でも特に優れた作品を厳選することで、高麗仏画の美しさを存分に打ち出したといいます。政治上の問題が心配されたものの、韓国から多くの来館者が訪れ好意的な意見が寄せられ、精細な図版を掲載した図録の売れ行きも好調でした。

實方氏の講話を受けて会場からは、編集中であるという櫻谷の写生帖のデータベースが広く公開・活用されることへの期待や、展覧会の「展開のさせ方」の重要性について意見が出ました。