【学芸リカプロ】開講特別公開シンポジウム「いまこそ〈企画力〉企画展制作の立案運営評価」7/22開催されました

2018年7月22日(日)、北海大学学芸員リカレント教育プログラム(略称:学芸リカプロ)がスタートしました。キックオフイベントとして、一般公開シンポジウム「いまこそ〈企画力〉企画展制作の立案・運営・評価」を開催し、約90名の参加がありました。

最初に、西井 準治理事よりご挨拶をいただき、佐々木 亨プログラム代表よりこのプログラムの趣旨と目指す最終成果について説明がありました。シンポジウムの前半は、4名の講師の報告、後半は4名の講師と佐々木教授によるパネルディスカッションが行われました。

西井理事のご挨拶。プログラムへの期待のことばをいただきました。

シンポジウムの詳細について、以下に受講生からのレポートを掲載します。

公開シンポジウム「いまこそ<企画力>企画展制作の立案・運営・評価」(前半)レポート

川岸 真由子

公開シンポジウム前半は、「企画力」をキーワードにパネリスト4名による事例報告が行われました。最初の冨田 章氏(東京ステーションギャラリー館長)による報告「東京ステーションギャラリーとその戦略」では、具体的な実例の紹介に先立ち、冒頭で結論が示されました。それは、それぞれの館固有の制約やジレンマを踏まえ、その状況を活用した企画を立てよ、というものでした。その後、同館の個性的な企画が紹介されました。

続く高市 純行氏(毎日新聞社東京本社事業本部)の報告「今こそ企画力〜共催の新聞社の立場から〜」では、マスコミ事業部と美術館が共催する大規模企画展について、その成立背景や閉幕後の影響を紹介いただきました。共催者の立場から見た理想的な学芸員像(研究者として一流、原稿が早い、お金の感覚が鋭い、社交的)にも触れられましたが、「お金の感覚」が挙げられたのが印象的でした。特に公立館の学芸員は弱点になりやすい所だと思います。

その後の佐々木 秀彦氏(東京都歴史文化財団事務局)の報告「企画力の拡張『ソーシャルキュレーション』という可能性」では、収蔵品を持たない東京都美術館を例に、学芸員の新たな役割の可能性が示されました。展覧会の企画(作品と作品に繋がりをつける)の考え方を発展させた、「コレクションからコネクションへ」(作品と人、人と人、人と場所、人と事柄…に繋がりをつける)という考え方を学びました。

最後に濱崎 加奈子氏(公益財団法人有斐斎弘道館館長)による報告「美に学ぶ《場》の再興を通じて」では、同館のさまざまな「再生活動」が紹介されましたが、ひとつひとつの企画の実践を通じてミッションを構築しているような在り方が印象に残りました。

今回登壇された方はいずれも公立館の現職学芸員ではありませんでしたが、公立館しか勤務経験の無い私にとっては、4件の報告それぞれが、新しい視点や切り口を与えてくれるものでした。

公開シンポジウム「いまこそ<企画力>企画展制作の立案・運営・評価」(後半)レポート

樋泉 綾子(札幌文化芸術交流センター SCARTS キュレーター)

後半のパネルディスカッションでは、「求められる学芸員像」「美術館のミッション」が中心的な話題となりました。

高市氏からは、「国宝展」など大型展でのご経験をふまえ、展覧会制作に関わる多くの職種の人と価値観を共有し、それぞれの立場を慮りながら業務を遂行する学芸員のコミュニケーション能力の重要性、冨田氏からは、「パロディ、二重の声」展において長大な裁判の判決文をあえて「展示」として見せて話題を誘い、展覧会のメッセージ性を強めた学芸員の挑戦についての言及がありました。

展覧会やその他事業の企画は、学芸員個人の関心のみならず、当然ながらその館の「ミッション」に基づきます。佐々木 秀彦氏からは、東京都美術館がリニューアルオープンを機にコレクションを持たない美術館として「コネクション」を重視するという方向性を打ち出し、それが館独自のアートコミュニケーション事業につながっていったことが語られました。冨田氏は、東京ステーションギャラリーのミッション(誰を対象に、どんな展覧会をするか)について相当な議論を重ねたことに言及し、既存の美術館も立ち止まって自分たちの為すべきことを再確認することが重要と指摘しました。これらの議論をふまえ、美術館の「社会貢献」について、専門性よりも普及性を重視した展覧会の増加や「モノ」から「コト」へと美術館の扱う範囲が広がっていることなどが話題になりました。

終盤、濱崎氏より「“美の現場”は美術館だけにあるわけではない、美術館は日常にあるものの美に気づかせる場所であってほしい」とのご発言があり、美術館が、訪れる人の日常生活に向かう態度や思考をスイッチする場であることが示唆されました。「美術館とは何か?」「学芸員は何をすべきか?」ということについて、考えを深める好機となりました。

質疑応答の後、最後に山本研究科長からのご挨拶をいただきシンポジウムは閉会しました。

シンポジウムの後は北海道大学総合博物館に移動し、講師の方々、受講生、プログラムのスタッフによる懇親会が行われました。受講生のみなさんは、講師の皆さんにシンポジウムでは聞き足りなかった詳細情報を質問したり、自己紹介をしたりして交流を深めました。学芸リカプロは、今後、講義・演習・実習・一般公開イベントを通して、受講生の企画展制作力を磨いていきます。