今年度末、退職される教員からのメッセージ

本年3月31日で文学研究科を退職される教員のうち津曲特任教授から、学生や若手研究者の皆さんに向けたメッセージをいただきました。

北方文化論講座 津曲 敏郎特任教授

「世界はことばによって発見されつゞける」

標題は詩人の杉山 平一(1914-2012)「ことば」という作品から。と言っても現代詩に嗜みがあるわけではなく、たまたま新聞の小さなコラムで見つけた(北海道新聞2012年5月22日朝刊「すたみなことば」)。言葉の根源的かつダイナミックなはたらきを端的に言い当てた詩人の感性に、我が意を得た思いがした。添えられた短い解説文には「この世のものは言葉で表されて初めて、私たちの「仲間」になる」とも。「分け」て名前を付けることが「分かる」ことにつながることを、日本語は他動詞・自動詞のペアで見事に表している。ふだん何気なく聞き話し、読み書きしている言葉だが、実は日々「発見」の営みなのだ。発見の蓄積が人を賢くする。「朝は前の晩より賢い」(Утро вечера мудренее)というロシアの諺があり、一般的には「寝る前にあれこれ考えるな、一晩寝ればよい知恵も浮かぶ」といった処世訓として解釈されているようだ。しかし、昨日よりは今日、今日よりは明日と、着実に知識と経験を重ねることで(言い換えれば言葉によって日々世界を発見し続けることで)、人は成長と前進を続ける、という解釈も許されるのではないだろうか。もっとも、若いうちはそのとおりでも、齢を重ねると発見の感動が薄れ、逆に日々記憶が抜け落ちていく現実も避けがたい。願わくは、日々の発見を忘れず、昨日より賢い明日であり続けたい。