〈Hokkaido Summer Institute 2023〉「東洋史学: イブンハルドゥーン、グローバルヒストリー歴史家」開催されました

9月4日~8日の5日間、Hokkaido Summer Institute 2023 / Hokkaidoサマー・インスティテュート2023開講科目のひとつ、Oriental History: Ibn Khaldûn, A Historian of Global History /東洋史学: イブン・ハルドゥーン、グローバル・ヒストリーの歴史家が開講されました。

本科目のメイン講師は、モロッコからお招きしたイブン・ハルドゥーン研究の専門家で世界的権威であるムハンマド5世大学(ラバト・モロッコ)名誉教授のAbdesselam CHEDDADI先生です。

海外招へい講師のアブドゥッサラーム・シャッダーディー先生

本講義は、前近代におけるグローバル・ヒストリーの概念やそのような歴史を書くことについて、イブン・ハルドゥーン(1332–1406)が果たした独特の貢献と、それと並んで、現代のグローバル・ヒストリー概念との比較の意義について考察することを目的に実施しました。更に、イブン・ハルドゥーン自身だけではなく、グローバル・ヒストリーの文脈におけるアラブの歴史叙述についての理解を深める機会を得ることを目指した学部生向けの内容です。

講義は、1. イブン・ハルドゥーン研究への新たなアプロ—チ、2. 当時の視点から見直すイブン・ハルドゥーンとその著作、3.『実例の書』の学問的構成、4. イブン・ハルドゥーンの総合人類学:文明の前提条件、5.イブン・ハルドゥーンの総合人類学:社会機能の基盤、の5部構成で、1~5部を毎日3コマで学ぶ内容です。1日3コマの講義は、1コマ目でシャッダーディー先生が英語・フランス語・アラビア語のキーワードを使い分けた英語での講義を行い、2コマ目では授業を協働実施する受入教員の佐藤先生(東洋史学研究室・教授)が英語での説明が難しいアラビア語のキーワードや当時の時代背景や概念についての解説をします。1コマ目の内容を2コマ目では日本語や英語で丁寧に解きほぐすことで受講生の理解度を深める流れです。その日最後の3コマ目では、再び英語やアラビア語のキーワードをメインに1コマ目の内容についての受講生からのコメントをもとに議論をしながら授業が進められました。講師と受講生が双方向に議論をすることで、受講生は”グローバルヒストリー”について更に思考を巡らせることができる形式です。

まずはシャッダーディー先生が原本にあたりながら講義、その後、佐藤先生が解説

1~2コマ目の講義内容について両先生と議論

初日の講義では、佐藤先生からシャッダーディー先生の紹介に続き、受講生とTAが自己紹介をしました。10人ほどの受講生のうち、多くは文学部や文学院の学生ですが、法学部や水産学部からの参加者もおり、東洋史学をはじめ人文社会学系とは異なる専門分野の学生を含めた多様な背景と多彩な視点をもった受講生が参加する講義となりました。TAは東洋史学研究室に所属する博士後期課程の大学院生が務め、授業での資料提示のほか議論で答えに詰まった学生への助け舟などの補助を行いながら講義全体のスムーズな進行を支えました。

シャッダーディー先生が文献について説明する間、TAが次の資料をOHPに準備

受講生の自己紹介が終わると、まずはシャッダーディー先生からグローバル化した現在に比較して、半世紀~1世紀前の時代ではどのように歴史を捉えていたか” What kind of Framework you can choose, and you can use.”と問いかけがありました。この”Framework”は、5日間の集中講義全体を通して頻出するキーワードで、学生は度々どのような”Framework”を使うのか、使えるのか、それはなぜなのか、考えます。また、シャッダーディ先生は歴史について語る際、” Universalism”や”Secularism”、”Progress”が”Important in Europe but not same way in other world”であると述べ、これまでは「”グローバルヒストリー”イコール世界史」ではなく各国史、例えばイギリス史、ドイツ史、フランス史、など、国という枠組みで歴史が捉えられており、”グローバルヒストリー”自体は発展途上である、”Not really well defined.”と、きちんと定義されていないことが強調されました。この、”グローバルヒストリー”を定義することはまだこれからである、という点、西欧諸国の歴史やそういった国々の”National Framework”での歴史はなく、別の”Framework”で歴史を考察する必要性がある点、について受講生は議論を通して繰り返し考えます。

英語やアラビア語、時にはフランス語を交えて講義

講義では、イブン・ハルドゥーンによる『歴史序説』のページをおいながら、当時から現代までに書かれたギリシャ語やアラビア語の哲学書と、イスラム教の宗教書からとらえる軸には時代的な限界があることや、文化的コンテクストの限界について” What kind of Global History we should have in this age.”と、受講生に問いかけます。また、「歴史」という言葉について、西欧中心の「歴史」を意味する”History”とは異なる概念を指す言葉として、アラビア語で「歴史」を意味する”Tarikh”が使われました。日本語では同じ「歴史」という単語でも、異なる概念を有する”History”と”Tarikh”を使い分けることで、「歴史」への新しいアプローチを受講生は学びます。また、グローバルヒストリーにおける問題は、”Methodological”ではなく”Political and Cultural Bias”であること、“A priori Idea”を持つべきではないことが言及され、” Every society have their own history.”であることについて考えます。
これまでは、世界史を学ぶ際に西欧諸国の枠組みやキリスト教の視点で捉えることが多かった受講生は、この授業を通して通常の講義や生活ではなかなか知ることができないアラブ諸国の枠組みやイスラム教の視点から捉える”歴史”について考える機会を得て、”歴史”を多面的に解釈するという新鮮な経験になったようです。

HSI2019科目として開講した「東洋史学:アラブ近現代史」から4年ぶりにモロッコから専門家をお招きしたHSI2023科目「東洋史学: イブン・ハルドゥーン、グローバル・ヒストリーの歴史家」。中世のイスラーム世界を代表する歴史家であり、文化人類学者、社会学者としての側面ももつ学者イブン・ハルドゥーンと、そのグローバル・ヒストリーの概念について、世界的に著名な研究者から英語で学ぶことができる、とても貴重な講義になりました。

最終講義の後の集合写真