学芸リカプロ受講生レポート実践研究3「地域研究と展覧会企画(2)」10/28 久米淳之氏の講義レポート

地域研究と展示会企画(2)
講師: 久米 淳之 氏(北海道教育庁生涯学習推進局 文化財博物館課 主幹)

地域研究と展覧会企画-コレクションは地域を救えるか-を受講して

金澤 聡美(小樽芸術村)

この度は、北海道教育庁生涯学習推進局 文化財・博物館課の久米淳之氏より「地域研究と展覧会」というテーマでご講演いただきました。久米氏は北海道立近代美術館をはじめとする公立館に長く学芸員として勤められ、現在は道立館の運営を所管する文化財・博物館課にいらっしゃいます。そのご経験をもとに、北海道の美術館を取り巻く概況を再確認した上で、これからの美術館、そして展覧会は地域の中でどうあるべきかを論じてくださいました。

はじめに、平成22年に久米氏がご寄稿された新聞記事をご紹介いただきました。内容は、当時の博物館法改正への動きを受け「地方の博物館が単なるイベント会場化される状況に陥る」ことが危惧される中、学芸員による地域の美術研究の成果が実を結んだ「真冬の花畑展(札幌芸術の森美術館)」を例に挙げ、展覧会実現にあたっての調査・研究の重要性を改めて説くものでした。そして現在においても、地域の博物館、美術館は常にそのあり方を問われ続けています。

そこで、地域にあるコレクションをどう活かしていくかという視点で、北海道のさまざまなアートプロジェクトの事例や、道内の美術館が連携し互いのコレクションを展覧会やイベントに活かす「アートギャラリー北海道」の取り組みについてご紹介いただきました。中でも「アートギャラリー北海道」については、どの館のコレクションをどこで活かしたいかを考えるワークショップも行い、北海道にあるコレクションの幅広さを再確認するとともに、今後起こり得るコレクションとコレクションの新たな相互作用の可能性も垣間見ることができました。

最後に、展覧会企画において、多くの学芸員は定量的な評価と学術性との両立に頭を悩ませていると思います。その中で今回のお話は、堅実な調査・研究、市民や他館との連携の大切さを改めて認識することのできる、重要な機会であったと感じました。

美術館の本質を問う―地域社会と美術館のあり方について―

海藤 梓(北海学園大学 大学院文学研究科 修士)

本講義では「地域研究と展覧会企画(2)」と題し、北海道教育庁生涯学習推進局文化財博物館科主幹であり、なおかつ北海道立近代美術館に学芸員として勤務された経験もあります久米 淳之氏から、地域社会に対し美術館のあるべき姿に関して、久米氏自身の経験や知識に基づく具体的事例を絡めながら、お話をいただきました。

近年、独立法人制度の発足や指定管理者制度の導入、財政逼迫による運営費の削減、市町村合併に伴う施設の統廃合など行政面を中心に、美術館運営を取り巻く環境は大きく変容してきております。こうした状況に対し久米氏は、2010年に地方分権改革推進委員会によって提出された、博物館登録要件の廃止または条例委任化を促す勧告を一例に、地域資料や作品を対象に「収集・保存」「調査・研究」「展示・教育」するという、美術館の本質的機能を担う学芸員の専門性が軽視されているとして、苦言を呈されました。その上で昨今、展覧会をはじめとする美術館運営が、入館者数や収益など利潤追求的な側面で評価されがちであることを批判し、意味をもって収集された地域のコレクションをいかに守り、活用し、伝えていくのかという、文化財保護や市民への情操教育という美術館の本質的事業でこそ評価されるべきとし、美術館の基本的あり方を見直す必要を強調されました。

久米氏の講義はアートプロジェクトの流行など、美術館を取り巻く最新動向を紹介しながらも、一貫してこうした危機意識と主張により展開されており、改めて博物館・美術館は公的施設であるが故に、行政や社会の変動による影響を免れざるを得ないこと、だからこそ博物館・美術館がその本質に基づく運営を行うためには、行政・社会がその本質・使命を正しく理解し、地域に根差した活動をめざす協同関係を築けるよう共に努力することが必要であると感じました。

地域研究と展覧会企画(2)の受講レポート

佐藤 いず帆(小樽芸術村)

今回の講義では、北海道教育庁生涯学習推進局、文化財・博物館学科の久米淳之氏より、「地域研究と展覧会企画」についてお話を伺いました。久米氏は北海道立近代美術館の学芸員として第一線で活躍してきた経験を基に、主に美術館・博物館の地域に与える影響や行政との関わり方など、学芸員としての視点からお話をして下さいました。

北海道の地域とアートプロジェクト

昨今行政の見解としては、『不要・不急の予算』として博物館の予算を見ているものが多い為、予算の申請をしても断られる場合が増えているそうです。その為決められた予算の範囲内で展覧会などを考えねばならず、それは結果的に『それぞれの地域にあるコレクションをどう活かしていくか?』というテーマにも繋がっていきます。もちろん「何を地域とするか」、「地域の何を、何によって活かすか」の2点は大変重要なポイントです。

この課題に対しての実施例としては、北海道内作家の作品を主に展示をしたアートプロジェクトが挙げられます。様々な視点や作風を持つ作家が集まって作るのがアートプロジェクトですが、例えばハルカヤマ芸術要塞や旭川彫刻フェスタなど、以前の道内では様々なプロジェクトが開催されていました。このアートプロジェクトには、認知度の低い作家の作品を扱うことで地域の作家を育てるという目的と、作品を展示するだけでなく、作家が主体となって地域の人に声をかける事で地域の人と一緒に一つのプロジェクトを作り上げていく事を趣旨としたプロジェクトです。

しかし、アートプロジェクトは行政が主体に行う場合には、本来の趣旨を理解されないという欠点もあります。顕著なものでは埼玉の現代アートのプロジェクトの例が挙げられます。2年目の開催を企画していたタイミングで行政の長が変わってしまい、その長にプロジェクトの趣旨を理解してもらえず、結果的に予算を打ち切られて中止せざるを得なかったという事案です。

また行政が主体となって行う事でのデメリットとして、作品の選定基準が作家の作品主体ではなく、集客の可否が基準になるなど、本来の趣旨とずれが生じるという点も挙げられます。これは行政の判定基準上、予算をかける基準としてどうしても結果を数値化する必要がある為です。
学芸員としては作品の持つ雰囲気や会場に合わせた作品の選定が必要となる為、こういった点で見解に齟齬が生じます。ですが、お互いに対立し合うのではなく、歩み寄る姿勢も大切だと久米氏は述べられておりました。

ミュージアム 美術館の役割と地域のかかわり

ここでは主に久米氏が近代美術館の主任学芸員として活躍をされていた頃に、実際に対面した問題などを中心にお話を伺いました。

70年代は美術館が乱立した時代でしたが、その後2000年以降は行政内部も大きく変わり、それによって美術・博物館にも大きな影響を及ぼしました。
例えば展覧会の企画提案をすると、収益を聞かれる事が多くなりましたが、展覧会は収益を目的に行っている訳ではない為当然黒字になる訳ではなく、特に公立の美術館はスパイラルを抱えています。
また、「市民の教育のために作品が必要」という理由では作品を買う予算は出ない為、このような制限がある中でいかにコレクションを活かすかが、今後の美術館・博物館の課題として挙げられます。
また、美術館・博物館には資料の保管・展示だけでなく、地域に役立つ施設を目指していくことも求められます。行政は作品や施設を含めて有効的な活用を求めている為です。

以前の美術・博物館の主な業務としては、「資料の保管・展示・研究・活用・市民の教育」が挙げられ、学芸員は各々の研究結果から得た情報を後世に残す事を求められましたが、今後の学芸員には行政からの期待に応えることも求められるのだと気づかされました。

自分の考え・意見など

実際に現場で活躍をされていた方のお話なだけに、非常に興味深く、参考になるお話ばかりでした。特に行政との関わりに関しての問題は、ほとんどの美術館・学芸員が抱えている問題だと感じます。久米氏も述べられておりましたが、本来やりたい事を成し遂げる為には行政からの信頼を築く必要があり、それはつまり企画展や展覧会で行政が望む結果を出すという事でもあります。美術・博物館は本来収益を求める施設ではありませんが、時代に合わせて施設だけでなく、学芸員の意識改革も必要だと感じました。

その為、お話の中にあった行政からのクラウドファンディングの提案の例は特に興味深く感じます。
本来美術・博物館が企画展を行う際には、予算は行政からのみ受け取るものでしたが、今後は時代の変革に合わせて柔軟な対応が求められると考える為です。もちろん賛否両論はあると思われますが、新しい取り組みへの挑戦は行うべきだと感じました。