学芸リカプロ受講生レポート実践研究2「地域研究と展覧会企画(1)」10/21 三浦泰之氏の講義レポート

地域研究と展示会企画(1)
講師: 三浦 泰之 氏(北海道博物館 学芸主幹)

いかに研究成果を展覧会企画に落とし込むか

高橋 美鈴

本講義では、北海道博物館の三浦泰之氏に「地域研究と展覧会企画(1)」と題して、お話いただきました。

講義では、地域の文化資源を取り上げることの意義や地域の課題への向き合い方、研究を展覧会に落とし込むポイントをテーマに据えつつ、研究テーマの選定、実施から展覧会の企画、開催までの流れについて、三浦氏がチーフとして展示企画を担当した「プレイボール!―北海道と野球をめぐる物語―」(以下、プレイボール展)と「幕末維新を生きた旅の巨人 松浦武四郎―見る、集める、伝える―」(以下、松浦武四郎展)の2件の事例をもとに教えていただきました。

プレイボール展は、三浦氏がもともと興味関心のあった分野だった事がテーマ選定の要素となったそうです。そのため、研究成果を展覧会企画への落とし込む時には、世代間の対話の促進、共有を意識したそうで、幅広い世代が楽しめる工夫をされていました。

研究テーマ選定の方法については、色々な動機があるということが講義中のお話でもありましたが、講義を聞きながら、本人の興味関心があるかどうかで研究成果の企画展の落とし込み方が変わってくるように感じ、学芸員がその分野について興味関心があることの重要性を感じました。

また、松浦武四郎展では、既に研究の下地があった上で、生誕200年、北海道150年に合わせて展覧会の実施だったとのことでした。

この展示では、大人向け、子ども向けで対象によって展示室を分ける工夫をされたそうです。そのほかにも、展示時に翻刻文のキャプションの付け方など文献資料を展示する上で出てくる問題点についてもお話いただき、専門家であり、既に研究の下地が多くあったからこその企画への落とし込み方、工夫の数々でした。

予算的な制約や体制、研究蓄積など自分に置き換えると「どこまで自分はできるのだろうか」と不安になりますが、その中でやれる工夫があると改めて気付く機会となりました。

資料の楽しさをどう表現するのか
-地域研究と展示会企画から学ぶこと-

 石岡麻梨子(株式会社ピーアールセンター)

今回の講義では、北海道博物館の三浦泰之氏が、自館で取り組まれた展示会を例にどのような点に着眼して展示の企画を行なったのかをご紹介してくださいました。

事例として紹介していただいた展示会は、1)資料が既にある状態からの企画展示 2)テーマ設定を行い、調査研究をした企画展示3)松浦武四郎生誕150周年のような外的要因からテーマ設定行い、ターゲット層に則した企画展示、といった3つのタイプの企画展示でした。

1)では、寄贈された日記といった文書資料の中に、書かれた内容の面白さを企画展示会でどのように伝えるのかが課題だったと話してくださいました。また、2)のテーマ設定では、企画者側の好きな野球というテーマをどのように肉付けして、地域とのかかわりの中に落とし込み、展示という形にしていくのかを、3)のテーマでは、松浦武四郎の歴史といった、硬派なテーマをどのように多くの世代、特に若年層に面白いと思ってもらえるよう工夫した点をポイントとして紹介してくださいました。

今回、この三浦氏の講義を通して、展示企画を行う上で重要なポイントは『楽しい』という企画者自身の感情なのではないかと思いました。3つの事例からは、資料やテーマに対して企画している方の、「面白い内容だから伝えたい」「大好きなことを大好きな人たちと共有して和を広げたい」「面白いということを、少しでも子どもに分るように伝えたい」「これからの興味の入口にしたい」そんな愛情や情熱、ワクワクした気持ちを感じました。

私自身の場合、一般企業に勤めている為か、企画を立てた際にはどうしても、動員人数や企画をすることで得られる効果や利益、といった目に見えた数字を追いかけ、それに向けての対策を行っていきがちです。そのため、どうして物事に対してなにか実施するときの動機である、「興味関心」や「面白さ」を伝えたい!そんな思いが、二の次、物の影に潜んでしまいがちということを、ふと気が付かされる場面となりました。

企業と博物館では、立場や果たすべき使命が違うところもありますが、「興味を持ってもらうのにはどうしたらいいのか」、「面白さを知ってもらうためにはどうしたらいいのか」といった、気持ちから、いわゆる広報的なアプローチの仕方も行ってみたいと思いました。そのために、伝えたい内容や物事に対する深い愛情・情熱や、興味関心を持ち続けなければとも思いますし、理解をしていく努力を続けていく必要もあることを実感した講義でもありました。

研究と企画の理想的な関係について考える

梅藤 夕美子(京都大学大学院文学研究科博士後期課程)

研究が先か、企画が先か。いずれにしろ、展覧会の背景には研究があることが大前提 だと、三浦氏はこの講義で経験に基づいて具体的な話をしてくれました。それは、私が前から思い悩んでいたことの 1 つでしたので、答えをもらったような気になりました。

三浦氏の講義は、①自分たちの足元にある地域の文化資源を改めて取り上げることの意義 ②地域の課題にミュージアムならではのやり方で向き合う方法 ③研究を展覧会に落とし込む際のポイント をテーマに、実際に北海道博物館(旧:北海道開拓記念館)でこれまで携わった特別展 10、企画テーマ展(テーマ展)13 の中から、「クラークの教え子内田瀞」(2009 年)、「プレイボール!―北海道と野球をめぐる物語―」(2017 年)、「幕末維新を生きた旅の巨人 松浦武四郎―見る、集める、伝える―」(2018 年)について、企画することになった経緯、企画から実現までに行ったこと、実際の展覧会の内容、その反響を詳しくお話ししてくれました。多くの人に伝わるように如何に研究成果を展覧会に落とし込むのか、常に問いかけながら具体的な作業を行っていく。三浦氏は、研究テーマ選定の動機は様々でも、自分が楽しまないことには展覧会に向けた色々な工夫はできないと仰っていました。だからこそ、三浦氏がそれぞれ企画した 3 つの展覧会の話はとても面白く、もはや展示を見ることは叶いませんが図録だけでも欲しいと強く思わされました。研究や展覧会企画の意義や自館の所蔵品への熱意がないとできないと思いました。学芸員が面白いと思ったものでないと、展示を見た人にも伝わらない。そして、それを具現化するには学芸員の力量が問われ、その力量を支えるのが日頃の研究だということを改めて思い知らされました。

後半は、グループワークとして「方形ハロー」を魅力的な展示にするにはどうすればいいのか、ということをグループに分かれて話し合いました。複数のグループで、実際に方形ハローを曳いてもらうというアイデアが出たことが興味深かったです。やはり、実際に使うことをイメージできることが大切なのです。〝実感〟を伴って伝えるということが、今ミュージアムには求められているからかもしれません。
とても有意義な講義でした。