〈Hokkaido Summer Institute 2019〉「東洋史学: アラブ近現代史」/ Oriental History: Modern Arab History 開講されました

9月9日~13日の5日間、Hokkaido Summer Institute 2019 / Hokkaidoサマー・インスティテュート2019開講科目のひとつ、Oriental History: Modern Arab History  /東洋史学: アラブ近現代史が開講されました。

本科目のメイン講師は、モロッコからお招きした北アフリカ近代史の専門家でムハンマド5世大学(ラバト・モロッコ)前教授のMohammed AAFIF先生です。

本科目は、北アフリカから中東にかけてのアラブ地域に関して、現地の専門家から日本や欧米の視点とは異なる見地について知識を修得し、アラブ近現代史を多様な観点から捉えることを目的に実施しました。更に、アラブから見た日本という新しい視点の獲得などグローバル人材となるべく広く歴史的視野を身につける機会を得ることを目指した学部生向けの内容となっています。モロッコから専門家をお招きして、アラブ近現代史について英語で学ぶことができるとても貴重な講義です。

海外招へい講師のムハンマド・アアフィーフ先生

本講義では、アアフィーフ先生による分かりやすい英語での講義を行うとともに、英語での説明が難しいアラビア語のキーワードや人物についての詳細を、受け入れ教員の佐藤先生(東洋史学研究室・准教授)が日本語や英語で解説することで受講生の理解度を深めながら進められました。

最初の講義は、受講生およびTAの自己紹介から始まりました。中国やブラジルからの留学生や、中東を専門としている学生や人文社会学系とは異なる分野を専門とする学生など、多様な背景をもった学生が受講する講義となりました。

     

自己紹介する受講生

受講生の自己紹介が終わると、まずは「アラブ世界The Arab World」と定義される地域について地図や数値を用いて紹介がありました。地中海に面した北アフリカや西アジアの中東地域、西はモロッコやモーリタニアから、東はイラクまでの広大な地域で、4億人以上の人々が住む22の国を「アラブ世界」と一般的に定義することが説明されました。

次に、19世紀から現在へ続くアラブ世界の近現代史についての概要の講義が続きました。「アラブ世界」を指す地域の歴史的変遷や同地域における2度の世界大戦およびフランス、スペイン、ポルトガル、英国などのヨーロッパ列強による植民地政策と侵略の歴史について、なかなか直接聞くことができないアラブ世界側からの視点で語られました。

               

モロッコの18・19世紀の歴史の講義の後は、「改革に失敗したアラブ世界と成功した明治維新」というアラブと日本の比較、モロッコの他、アルジェリアやチュニジア、スーダン、エジプトの第二次世界大戦後の独立、汎アラブ主義の高まり、湾岸地域の石油国家の誕生、さらに第二次世界大戦後から現在まで続く諸問題についての講義がありました。

               

pptとホワイトボードを利用し、英語、時にはアラビア語で解説をするアアフィーフ先生

講義では、使用するpptの情報量を最小限に抑え、効果的に動画やWEBサイトを提示することで座学では下を向いて配布資料に集中しがちな受講生の目を講師に集中させることに成功していました。具体例や詳しい解説を含む講義の前半に対し、後半は前半の講義内容に関する問いかけをなるべく多くの受講生にする形で行われました。受講生は、講師からふられる難易度の高い質問に授業の内容だけではなく、自分で調べた情報を併せて答えを模索したり、他の受講生の意見を聞いて、更に自身の考えに広がりを持たせながら一生懸命答えを出そうとしていました。質問は講師から受講生だけではなく、反対に受講生から講師へも行われ、たくさんの質問が出ました。中には核心を衝く問いに講師自身がしばし考え込み、難しい質問であり、貴重な資料が他国の侵攻で散逸した結果、あまり研究が進んでおらず判断できない、と答える場面もありました。
また、英語が苦手な受講生のために、受講生の日本語での質問や意見のあと、佐藤先生がアアフィーフ先生に英語で通訳しながら質疑応答を進める場面もありました。 

           

アアフィーフ先生と意見交換する受講生・受講生の問いに考え込むアアフィーフ先生

              

最終日はCurrent Issuesと題した、日本も無縁ではないクルド人についてや北アフリカでも特にモロッコやアルジェリアで問題となっているAmazighの人々、エジプトのコプト教徒、西サハラについての講義、アラブ世界での民主主義に関する講義、そして1991年の湾岸戦争から現在まで続くアラブ世界での様々な変化と課題についての講義で最後は締めくくられました。

              

複雑化する諸問題と未だ解決策が模索されるアラブ世界の現状を説明する中で、アアフィーフ先生は次の点を繰り返し語りました。同じ問題でも視点が異なれば意味するところも異なること。善悪の判断は立場が変われば反転するもの。国家の政策で国同士に問題があっても、そのことと、そこに住む市井の人々同士との関係は区別して考えること。

多様な問いと、多視点の意見が出る中、受講生は通常の講義や生活ではなかなか知ることができないアラブ世界の課題や事象についての多面的な見方をえることができ、新鮮な経験になったようです。

最終講義の後の集合写真

アンケートでは、通常の半年間の講義よりも本集中講義の5日間の方が充実していた、という感想や毎講義ごとに質疑応答の時間が設けられていることで、より深く学ぶことができた、という感想がありました。