学芸リカプロ公開シンポジウム「文化多様性は何をめざすのかミュージアム考える、新時代」開催されました

令和元年6月9日に、公開シンポジウム「文化多様性は何をめざすのか―ミュージアムと考える、新時代」を開催しました。このシンポジウムは、本年4月に文学院の改組に伴って誕生した「文化多様性論講座」と、昨年度から活動している「北海道大学学芸員リカレント教育プログラム(學藝リカプロ)」とが、共同で主催し、実施したものです。文化多様性論講座を構成する文化人類学、芸術学、博物館学という3つの学問領域の特性を活かしつつ、現代社会にとって避けて通ることのできない文化多様性という課題について議論を深める機会となりました。

シンポジウムの冒頭、北海道大学理事の西井準治教授と文学研究院長の山本文彦教授があいさつに立ちました。西井理事からは二年目に入った学芸リカプロの成果と展望について、山本研究院長からは新設された文化多様性論講座の意義について、それぞれお話がありました。

西井理事のご挨拶
山本研究院長のご挨拶

続いて基調講演を行ったのは、「フォーラムとしてのミュージアム」を提唱してきた国立民族学博物館の館長・?田憲司氏と、第57回ヴェネツィア・ビエンナーレ日本館のキュレーションを担当するなど、国際的にも評価が高いキュレーターの鷲田めるろ氏です。?田氏は、自身の研究対象であるアフリカの事例に基づきながら、コミュニティが自文化のミュージアムをつくっていく活動等を紹介し、「テンプル」ではない、「フォーラム」としてのミュージアムのあり方を提示しました。鷲田氏は、現在キュレーターとして携わっているあいちトリエンナーレ2019のエピソードをもとに、既存のコミュニティと現代アートとの衝突や協働、そしてミュージアムの外へと活動をひろげていくことの意味について論じました。北大に新設された文化多様性論講座のキーワードのひとつは「フィールドワーク」ですが、両氏の基調講演は、そのようなフィールドでの研究と実践が重要であることを浮き彫りにするものだったと言えるでしょう。

?田 憲司氏(国立民族学博物館 館長)のご講演
鷲田 めるろ氏(あいちトリエンナーレ2019キュレーター)のご講演

さらに両氏の講演を受け、新講座から3名の本学教員が登壇し、コメントを加えました。芸術学研究室の谷古宇尚教授は、西洋に由来する美術史という学問が、中心的な価値や文化を否応なく際立たせてしまうという性質を指摘し、あり得たかもしれない美術史、もうひとつの美術史の可能性を問いました。文化人類学研究室の小田博志教授は、北インドで目撃した農法に着目しつつ、単一の作物だけを育てるモノ・カルチャーと、文化的な画一性としてのモノ・カルチャーとに共通する脆弱性を指摘しました。博物館学研究室の佐々木亨教授は、ここまで論じられてきた価値の多様化や対話といった論点が、ミュージアムをめぐる近年の議論や関連法規にも実は登場していることを紹介し、現代の日本社会とミュージアムにおける文化多様性の問題に改めて注意を促しました。

最後に、文化多様性講座の鈴木幸人准教授の司会のもと、登壇者全員によるパネルディスカッションが行われました。ここでは、コミュニティのよりよい存続のために必要な多様性のあり方や、生物多様性と文化多様性との共通点など、幅広い話題が登場しました。開催日が大学祭の最終日にあたっていたこともあり、来場者層もまさに多様でしたが、ディスカッションの最後には来場者からの質問が多く飛び交い、関心の高さをうかがうことができました。

パネルディスカッション