【学芸リカプロ】公開成果報告会のレポート

北海道大学学芸員リカレント教育プログラム(略称「學藝リカプロ」)では、地域文化のリーダーであることを社会から期待されている学芸員等の専門職員を対象に、質の高いリカレント教育の機会を提供し、地域の文化発信力の底上げに寄与することを目指しています。事業の初年度にあたる平成30年度は、合計32名の受講生と4名の聴講生を受け入れ、講義や実習等のプログラムを開催してきたところです。その学びの成果を一般に公開するべく、2019年3月9日(土)、北海道立近代美術館にて公開成果報告会を開催しました。

報告会では、學藝リカプロの受講生のうち、職務や学業の都合で発表を取り止めた方を除く25名が、口頭発表、ポスター発表、シンポジウム発表のいずれかの形式で報告を行いました。来場者は137名。一般市民を含む多くの方が会場を訪れて盛会となりました。

 

当日は、10時からポスター発表の会場がオープンしたことに続き、午後からのプログラムの前には、笠原正典北海道大学理事からご挨拶を頂戴し、本事業全体の意義を説明していただきました。次いで、學藝リカプロ代表の佐々木亨教授(北海道大学大学院文学研究科)が本年度の総括を兼ねて事業の特徴を報告し、13時15分からは受講生による口頭発表(Session A)へと続きます。

笠原正典理事によるご挨拶

佐々木亨プログラム代表が事業の主旨を説明

口頭発表では、7名の受講生が合計5本の研究発表を行いましたが、勤務館の所蔵資料や企画展に関する発表はもとより、海外の博物館について考察したり、ミュージアム・ショップのあり方を模索したりする発表もあり、バラエティに富んだセッションとなりました。ゲストコメンテーターとして招聘した佐久間大輔氏(大阪市立自然史博物館)からは、多岐にわたるテーマの発表にも関わらず、その都度、鋭い指摘を数多くいただきました。

SessionA 口頭発表

ゲストコメンテーターの佐久間大輔氏

多くの来場者が熱心に聴講しました

ポスター発表(Session B)では、15名の受講生が13本の発表を行いました。こちらも、勤務するミュージアムに関連する研究に加えて、特定の美術家に関する研究、展覧会カタログに関する研究、図書館や公文書館とミュージアムとの連携に関する研究など、幅広いテーマが出揃いました。会場では、発表者と来場者とが真剣に議論をする姿が多く見られ、次年度以降の学びに向けてモチベーションを高めた方も少なくなかったようです。

SessionB ポスター発表

ポスターを囲んで議論がはずみました

15時からのシンポジウム(Session C)は、北海道立近代美術館で開催中であった展覧会「生誕70年・没後40年記念 深井克美展」にあわせ、「夭折の画家、再考」と題して開催したものです。學藝リカプロの受講者であり、現役の学芸員としても活躍している3名が、勤務する館での仕事とも関連付けつつ、若くして没した画家に関する研究発表を行いました。ゲストコメンテーターの冨田章氏(東京ステーションギャラリー)を交えたディスカッションでは、それぞれが独自に行ってきた研究が「夭折の画家」というキーワードで結びつけられ、横断的に検討されました。

SessionC シンポジウム「夭折の画家、再考」

シンポジウムのゲストコメンテーター冨田章氏と司会の谷古宇尚氏

パネリストは現役学芸員の受講生三氏

 

ところで、本プログラムの最大の特徴は、受講者の多くが現役の学芸員ないしは文化施設の職員等として既に現場に立ち、相応の経験を積んでいるということです。つまり、本プログラムの受講者は、プログラムの場では学ぶ立場にありますが、他方でそれぞれの勤務先では社会教育を提供する側のプロフェッショナルであったり、各分野の専門家であったりするわけです。そのため、成果報告会では高いレベルの発表や質疑応答が行われ、一般来場者からもその発表内容から多くを学んだといったコメントが寄せられました。このことは、「学びながら、学びの内容を地域市民に還元していく」という本プログラムの強みが活かされたことを示しているものと考えられます。

また、成果報告会では、専門分野の異なる複数の受講生が共同で調査・研究を行い、口頭発表やポスター発表を行ったケースや、日常の業務では取り組むことが難しかった地域作家の調査研究が進展したケースなどが生まれました。各々の職場の運営母体・規模・館種・地域的特性や、受講者自身の専門分野の違いはあるものの、そのような諸条件に過度に縛られることなく意見や情報を交換し合える場となることも、本プログラムにとっては重要なポイントだったと思われます。

 

シンポジウム終了後には、挨拶に立った北海道大学大学院文学研究科長の山本文彦教授から本事業の今後に対する期待と激励の言葉をいただき、さらに北海道芸術学会の南聡会長が盛会を祝いつつ閉会の辞を述べられました。

閉会の挨拶・山本文彦文学研究科長

なお、本報告会は、北海道芸術学会との共同主催、北海道立近代美術館との共催というかたちで開催したものです。北海道の文化・芸術の振興に寄与してきた北海道芸術学会・北海道立近代美術館と、新たな試みである本事業とのコラボレーションを通じて、地域文化の今後のあり方を展望する一日となりました。