【学芸リカプロ】「企画展立案スキル(5)ポスター図録制作の現場から」12/10 ⽥ 達司氏の講義レポート

ポスター・図録制作の現場から
講師:⽥村 達司 氏(⽇本写真印刷コミュニケーションズ 株式会社)

小川原脩記念美術館 沼田 絵美

今回の講義は、日本写真印刷コミュニケーションズ株式会社の田村 達司氏より「ポスター・図録制作の現場から」というテーマでお話しいただきました。

前半は、印刷物の基本と、展覧会企画を印刷物にブレーク・ダウンする手法について講義が進められました。印刷物の基本用語のほか、色校正では作品の印象を言葉で伝えた方が効果的であることや、原紙や判型に応じた効率的なページ割りの考え方などの解説がありました。

次に企画を印刷物にブレーク・ダウンするために、4つの手法が挙げられました。1点目はクリエイターとの「協働」が不可欠であること、2点目には機能性とデザイン性を天秤にかけた時に、デザイナーの自由度を高めてはとの提案でした。そして3点目は、図録制作と展覧会運営の一体感であり、原稿と納期の関係、会期中の補充管理、観覧者層を意図したサイズ決定といった場面で強く感じました。

4点目には従来の「図録は展覧会の記録・再現である」という概念が変化している現状が挙げられ、展覧会企画そのもの根本の問題として、一歩抜きんでた企画へと押し上げるには重要な議論であると田村氏も位置付けていました。図録は独立したメディアとして展覧会のメッセージ、コンセプトを伝えるものとする考え方や、その実例を示されました。一方でデジタル媒体に置き換えることはできない「モノ」としての魅力が図録にはあり、リアルとの接点を求める美術ファンからの需要があるという点は、受講者からも共感の声がありました。

後半は、田村氏が宅急便で送り届けてくださった沢山の図録を受講者が実際に手に取りながら、事例をご紹介いただきました。特に印象的だったのは「ジャン・ヌーベル展」図録で、ビス止めを加えた製本仕様は、建築家の展覧会であることを強調するコンセプトブックとしての役割を持っています。また「国宝展」図録では、作品図版を用いる決断あってこそこだわりの印刷技術が発揮されたとのことで、高級な質感が際立っていました。

最後に「すべての原動力は『こんな展覧会をひらきたい』という熱い気持ちです」と田村氏より受講者に向けエールを頂きました。「気持ち」を受け止めたリアルな図録を手に取ることのできた本講義は、展覧会企画への思いを協働者と共有できているだろうかと振り返ると同時に、伝えたいというモチベーションを高める機会となりました。