書香の森・特集図書展示の更新を行いました。
今回は33年間北海道大学で教鞭をとられてきた武田雅哉先生の著作(書香の森収蔵分、分担執筆を除く)を紹介します。
展示書籍リスト
著作
- 翔べ!大清帝国: 近代中国の幻想科学 (最初のソロ単行本 修論の書籍化)
(武田 雅哉 著 リブロポート 1988年)
荒俣宏さんから「君も本を書きなよ」とのお言葉を頂戴して作ったソロ単行本第一作ですが、じつは出来たての修論。ヴィジュアル中心の本書は、尊敬する中国文学の大御所から「絵だらけの本は虫酸が走る」との感想を賜わりました。その先生はご退職にあたり「これは君の仕事だ」と、その蔵書から膨大なヴィジュアル資料を贈ってくださいました。 - 星への筏: 黄河幻視行 (卒論の書籍化)
(武田 雅哉 著 角川春樹事務所 1997年)
卒論を膨らませて10年後に書き下ろした本で、中国人の大地と宇宙への情念がテーマ。全学の講義ではいつも最終回に話す、お気に入りの題材です。宮本輝さんから『星宿海への道』(2003)を頂戴し、ぶったまげました。この本を読んだ主人公が、ある行動を取る……というおはなしだったのですから。 - 桃源郷の機械学
(武田 雅哉 著 作品社 1995年)
優れた編集者との出会いは、ひとつの事件です。ぼくが書き散らしたものを読んでくれた加藤郁美さんという編集者からの一通の手紙で始まった本。装幀の祖父江慎さんとともに、ワアワアはしゃぎながら作っていただいた由。吹けば飛ぶよな中身に合わせて、物理的にも、とても軽いフワフワした本です。レイアウトから紙の選択まで、編集・装幀のセンス抜群の本にお化粧していただきました。
- 中国飛翔文学誌: 空を飛びたかった綺態な人たちにまつわる十五の夜噺
(武田 雅哉 著 人文書院 2017年)
思えば、ぼくが一貫して抱いてきた関心は、中国人の「飛翔」だったと思います。非漢字構想も、猪八戒も、女装も、なにかしら空を翔ぶこととの関連で、ぼくの中では通底しているテーマなのでした。 - ゆれるおっぱい、ふくらむおっぱい: 乳房の図像と記憶 (飲み会の書籍化)
(武田 雅哉 編 岩波書店 2018年)
愉快な仲間たちで作った研究会だと、すぐに本ができます。これは田村容子先生との飲み会でのおしゃべりで「おっぱい研究会」が発足してしまい、科研に応募したら当たってしまい、やがてたまった成果をまとめて出ちゃった本。よく考えたら、ぼくの本は、飲み会から生まれた本ばかりです。 - 中国のマンガ —〈連環画〉の世界 (今回の展示に関連して)
(武田 雅哉 著 平凡社 2017年)
連環画との出会いは、札幌の中国書籍を売っている書店でした。店のご主人は、北大にも中国語を教えにきていらした華僑のかたです。中国では骨董品あつかいで何千円もしていた文革期の連環画も百円以下で売ってくれたので、ぼくらは「札幌の敦煌」と呼んでいました。最近は、上海の書店に依頼して、現地でボロボロになった貸本連環画を買い集めてもらいました。連環画の世界は、一冊一冊の分析よりも、ある程度の冊数がたまって、なにかが見えてくるものです。おかげで連環画は1万冊ほど集まりました。本屋さんも研究の強い味方です。
この他の展示書籍のリスト
単著
タイトル | 著者 | 出版社 | 出版年 |
西遊記 : 妖怪たちのカーニヴァル
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武田雅哉 著 | 慶應義塾大学出版会 | 2019年 |
万里の長城は月から見えるの? | 武田雅哉 著 | 講談社 | 2011年 |
中国乙類図像漫遊記 | 武田雅哉 著 | 大修館書店 | 2011年 |
飛翔吧!大清帝國 : 近代中國的幻想科學 | 武田雅哉 著、任鈞華 訳 | 遠流出版事業 | 2008年 |
楊貴妃になりたかった男たち : 「衣服の妖怪」の文化誌 | 武田雅哉 著 | 講談社 | 2007年 |
「鬼子」たちの肖像 : 中国人が描いた日本人 | 武田雅哉 著 | 中央公論新社 | 2005年 |
よいこの文化大革命 : 紅小兵の世界 | 武田雅哉 著 | 廣済堂出版 | 2003年 |
猪八戒とあそぼう! : 絵本・演劇・造形 | 武田雅哉 著 | 歴史民俗博物館振興会 | 2002年 |
新千年図像晩会 | 武田雅哉 著 | 作品社 | 2001年 |
蒼頡たちの宴 (ちくま学芸文庫) | 武田雅哉 著 | 筑摩書房 | 1998年 |
蒼頡たちの宴 : 漢字の神話とユートピア | 武田雅哉 著 | 筑摩書房 | 1994年 |
編著
タイトル | 著者 | 出版社 | 出版年 |
中国文学をつまみ食い:『詩経』から『三体』まで
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武田雅哉、加部勇一郎、田村容子 編著 | ミネルヴァ書房 | 2022年 |
中国怪談集 | 中野美代子、武田雅哉 編 | 河出書房新社 | 2019年 |
中国文化55のキーワード | 武田雅哉、加部勇一郎、田村容子 編著 | ミネルヴァ書房 | 2016年 |
共著
タイトル | 著者 | 出版社 | 出版年 |
中国科学幻想文学館________ | 武田雅哉、林久之 著 | 大修館書店 | 2001年 |
翻訳
タイトル | 著者 | 出版社 | 出版年 |
図像だらけの中国 : 明代のヴィジュアル・カルチャー | クレイグ・クルナス 著、武田雅哉 訳 | 国書刊行会 | 2017年 |
監修
タイトル | 著者 | 出版社 | 出版年 |
アジア図像探検 | 杉原たく哉 著、杉原篤子 編、武田雅哉 監修 | 集広舎 | 2020年 |
研究誌『連環画研究』について
連環画の研究が科研に採択されたので、成果を世に出す方法としては雑誌を刊行することだと思いました。私は、研究誌の定番である看護婦さんのような白い衣装だけは避けたいと思い、漫画雑誌ぽい派手な表紙デザインを、北大総合博物館での連環画やポスターの展示でお世話になった、いまは亡き宇佐見祥子さんにお願いしました。10年続けたところで飽きたので、終刊としました。「イコノテクスト」——すなわち、同じ紙面で踊る文字と絵の共演といういう魅力的な形態をめぐる研究は、新しい研究者と新しい媒体によって、近い将来、ふたたび世に問われることでしょう。
武田先生からのメッセージ
ぼくが最初に作ったソロ単行本は『翔べ! 大清帝国』でした。——そう。本は「書く」ものではなく、「作る」もの。修士課程のころ、東京で荒俣宏さんとお話しした際に、「いま新しいシリーズを立ち上げるんだけど、君もなにか書きなよ」とのお言葉を頂戴して作ったもので、いまはなきリブロポートという出版社の「リブログラフィクス」というヴィジュアルを強調したシリーズの一冊です。中国には豊富なヴィジュアル世界が広がっているにも関わらず、中国文学研究の世界は「文字」が中心で、たとえ絵画という分野においてでさえ、あまりおもしろいと思えるものがありませんでした。『翔べ! 大清帝国』は、じつはそのころ書き終えた修士論文でして、清朝末期のSF的想像力を、あくまでも自分で楽しむための覚え書きのようなものです。そのころでは、いわゆる「美術」の研究対象には属さないような図像を扱ったので、指導の先生がたを困惑させたかもしれませんが、それでも見棄てられることなく、こちらの話にお付き合いいただきました。本の形になってから、尊敬する中国文学の大御所に献本したところ、「こんな絵だらけの本は虫酸が走ります」との感想を賜わりました。以来、その先生とは楽しい文通がつづいていましたが、ご退職にあたり「これは君の仕事だな」と、その蔵書から膨大なヴィジュアル資料を贈ってくださいました。台湾と大陸から中国語版も出ておりまして、日本よりも、むしろ中国で読まれているようです。いまでこそ図像研究は中国でも流行りにさえなっているようですが、あまりおもしろくはありません。研究者や著者がおもしろがっていないからでしょう。
卒論で扱ったテーマを膨らませて、10年後に書きおろした本が、『星への筏——黄河幻視行』です。黄河の源流はどこにあるのか? をめぐる、中国人の大地と宇宙への情念がテーマ。全学教育の講義では、いつも最終回に話す、お気に入りの題材です。学部の時に留学して、外国人立ち入り禁止区域であったチベットに何度も潜入して、取材したというよりは、勝手にモチベーションを高めていました。本学歯学部の大泰司紀之先生を中心とする野生クチジロジカの現地調査に加わり、チベットの黄河源流域に何度も足を踏み入れた体験も、本書の執筆に大きな影響を与えています。あるとき、作家の宮本輝さんから『星宿海への道』(2003)を頂戴し、読んでみてぶったまげました。主人公が『星への筏』を読んで、ある行動を取る……というおはなしだったのですから。
優れた編集者との出会いは、ひとつの事件です。『桃源郷の機械学』は、ぼくが書き散らしたものを読んでくれた加藤郁美さんという編集者からの一通の手紙で始まった本。装幀の祖父江慎さんとともに、ワアワアはしゃぎながら作っていただいた由。吹けば飛ぶよな中身に合わせて、物理的にも、とても軽いフワフワした本です。加藤さんには、その後も『新千年図像晩会』『清朝絵師呉友如の事件帖』と、しめて三冊の本を作っていただきましたが、いずれもレイアウトから紙の選択まで、編集・装幀のセンス抜群の本にお化粧していただきました。研究者が出す学術書の装幀って、どうしてあんなにセンスがないんでしょう? 内容がすばらしいのはもちろんでしょうけれど、ちょっとした工夫で、書店で手に取ってもらえるものになるのになあ。
大規模な学会とか研究会は苦手なので、なるべく接点を持たないようにしたいほうなのですが、飲み仲間たちで作った研究会だと、すぐに本ができます。『ゆれるおっぱい ふくらむおっぱい』(岩波書店)という論集も、ワコール本社で開催された乳房文化研究会でのぼくの発表をきっかけにして、田村容子先生などとの飲み会でのおしゃべりで「おっぱい研究会」が発足してしまい、科研に応募したら、こりゃまた採択されてしまい、研究分野の国境を越えた愉快な仲間たちを巻きこんで、やがてたまった成果をまとめたものです。「おっぱい」という単語をタイトルに入れるべきであり、そんなタイトルの本が、マジメで堅い本を出すというイメージがある岩波書店から刊行されねばならないということが、ひそかなる戦略でした。その岩波書店には、渡部朝香さんという北大文学部出身の頼りになる後輩が「おもしろい本はないか」と、手ぐすね引いて待っています。まこと、愉快な仲間たちとの御縁は大事にしておくべきものでありましょう。
思えば、ぼくが一貫して抱いてきた関心は、中国人の「飛翔」だったと思います。非漢字構想も、猪八戒も、女装も、なにかしら空を翔ぶこととの関連で、ぼくの中では通底しているテーマなのでした。かつて荒俣宏『理科系の文学誌』(工作舎)やニコルソン女史の『月世界への旅』(国書刊行会)を耽読して、こういうのを中国でやりたいのだ! とひとりで興奮しながら、このテーマを長年にわたって書きためてきました。『月世界への旅』の訳者であり、これまた学生時代の必読作者であった高山宏さんに、「中国の飛翔文学はぼくがやる!」と豪語したものの、まだまだおもしろいネタが黄土の大地に埋もれているような気がして、なかなか脱稿とはいきませんでした。そうこうするうちに、世の中は紙の本が売れにくくなり、もう本なんかどこも出してはくれないだろうと思いきや、人文書院の井上裕美さん——この人は北大界隈によく出没しているので、御存知の方もありましょう——が拾ってくださった次第で、『中国飛翔文学誌』が日の目を見ました。子供のころより、大人たちから「地に足をつけろ」と何度も言われてきましたが、いまだにつける地が見当たりません。
これから研究を本にしたい人へのメッセージを、ということですが、ひとつには「著者がいちばんエラいんじゃないぞ!」ということを肝に銘ずること。もちろん最終的な責任は著者が負うべきですが、自分の書いた論文が雑誌に掲載されたり、一冊の本として出版されるまでに、どのような人びとによる、どのような作業が経られているのかを、身をもって知っておくべきだと思います。そのためには、研究室で出しているような雑誌の編集に携わることが必要かと思います。ぼくらの研究室でも学生・院生が中心になって雑誌をいくつか作っていますが、内部の執筆者は、かならず編集委員となって、外部執筆者との連絡を担当したり、すべての原稿に目を通してコメントを出し、印刷所との交渉や校正もおこなうことになっています。
関連展示
書香の森企画展示コーナーにて、「ようこそ〈連環画〉の世界へ」を同時開催中です。こちらもあわせてご覧ください。詳細は、以下の関連リンクをご覧ください。