今後の政策立案に活かせる数字を読み解く訓練

プロフィール

林 千裕 さん(総務省北海道管区行政評価局勤務)
熊本県熊本市出身。熊本県立熊本高等学校卒業後、2016年4月に北海道大学に総合文系で入学。2年次に文学部に進学し、人間科学コース/社会学研究室を選択し、環境や社会が個人の考え方に与える影響について研究。2020年3月に卒業、同年4月より総務省北海道管区行政評価局に勤務している。

北大文学部を選んだ理由

「一度も訪れたことのない地域で、自分らしく学んでみたい」という思いから北海道大学を志望しました。

高校3年生時点では教員になりたいという夢がありつつ、文学への探究心もあり、どの学部を受験するか迷っていました。そこで2年次に所属学部を選べる「総合入試文系」という区分で受験に挑みました。入学後に自分の興味をさらに深めて学部を選べる総合入試は非常に魅力的でした。1年次にさなざまな授業を受講する中、学びたい分野が次第に定まり、文学部を選びました。

育った環境の違いが教育機会に格差を生じさせ、職業選択や所得にも影響を及ぼすという話を、誰しも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

平澤先生は、教育格差に関する問いに対し、個人を特定できない形で加工した個票データを用いた定量的な分析などにより、「格差は本当に存在するのか」、「どのような条件下で格差が広がるのか」といった問いに向き合い、研究されています。

私自身、進学を通じて多様な価値観やバックグラウンドを持つ人々との出会いを経験し、環境や社会が個人の考え方や生き方にどのように影響を与えているかについて関心を持つようになっていたことから、社会学研究室で学ぶことを決めました

文学部ではどんな研究を

家庭環境という自分では選択することができない要因が、結婚に対する意識や価値観の形成にどのような影響を及ぼすのかについて興味があり、卒業論文のテーマとしました。家庭環境に対する受け止め方や結婚に対するイメージはいずれも主観的な側面を持っているため、質問紙の設計などの定量化のプロセスにおいては慎重に検討する必要がある部分が多く、難しさを感じる一方で、面白さもありました。

北大文学部に行ってよかったですか

私は社会学を中心に、関心のあった国文学史やインド哲学などの講義も受講しました。また、教職課程の科目も履修し、国語と公民の教員免許を取得しました。自身の専攻に限らず、関心のある分野を選択科目として幅広く学べる文学部は「いいとこ取り」ができる理想的な環境だと思います

在学中、大変だったことは

社会学の中でも定量的な分析手法を扱うものには、数字(データ)が多く登場します。文学部なのに数字?と思うかもしれませんが、確からしさや傾向の強さなど、数字は様々な情報を伝えてくれます。

私も初めは数字に対して苦手意識がありましたが、平澤先生のゼミでは、論文の至るところに登場する数字と向き合いながら、「この数字からはこういうことが言えるのではないか」などと議論を行います。初めはちんぷんかんぷんだった分析結果の読み取りのしかたや解釈も、毎週のゼミで鍛えられていくうちにだんだん分かるようになり、数字を見るのがいつしか楽しいと思えるようになりました

卒業後から現在までの道のり

人々の暮らしに直接寄り添い、社会を安心で豊かなものにすることができる公務員の仕事に魅力を感じ、志望しました。4年次の6月に公務員試験を受験し、7月の官庁訪問を経て総務省北海道管区行政評価局から内定をいただきました。

現在のお仕事の内容

行政に対する苦情や意見、要望を受け付け、行政運営の改善を促す行政相談という業務と、担当府省とは異なる立場から各府省の業務の実施状況を調査し、課題や問題点を把握・分析して行政運営の改善に資する情報を提供する調査業務が主な業務です。

執務室での写真。相談は来訪のほか、電話やメールでも受け付けているため、パソコンと電話は必須アイテムです。

文学部で学んだことは今のお仕事に役に立っていますか

調査業務で関係行政機関を対象としたアンケート調査票を作成する機会があり、卒業論文で実施した質問紙調査の経験が役立ちました。設問の構成や回答の形式を考える際に、当時学んだ知識を実務で活かすことができたと感じています。また、関係機関から収集した統計データの分析や報告書作成といった業務においても、研究室で学んだデータの見方や論理的な文章構成力が活かされていると感じます

今後の目標・夢

私の今後の目標は、当省のEBPM(エビデンスに基づく政策立案)の推進に係る取組に携わり、行政運営の改善に寄与することです。政策立案においては、政策効果の検証・評価が重要ですが、前例や経験則が重視され、そのプロセスが十分に実施されていない場合もあります。当省では、各府省と連携し、統計データや調査結果などの客観的指標を積極的に活用することで、より効果的かつ信頼性の高い政策運営を実現する取組を進めています。私自身も政策の理解と分析手法の知見を深め、実務を通じてEBPMの推進に貢献したいと考えています。

2025年7月に大雪山を登山しているときの写真。登山は大学のサークル活動をきっかけに始め、今でも趣味として、見たことのない景色を求めて登っています。

後輩のみなさんへのメッセージ

「関心がある」、「学んでみたい」という気持ちに素直に従って文学部へ進学したことで、興味のある分野が広がりました。学びを深める中で、自分でも想像していなかったような進路や就職先と出会うことができ、視野が大きく広がったと感じています。

文学部は、自分の思考力や表現力を磨きながら、幅広い分野に触れられる場所です。「知りたい」という気持ちを大切にして、一歩踏み出してみてください。新しい出会いが見つかるはずです。

(2025年8月取材)