企画展示冬の第二農場

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書香の森の企画展示が更新されました。今回は、文学研究科所蔵の池田 芳郎の作品です。

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池田 芳郎(1895-1991)
冬の第二農場(キャンバス、油彩、制作年不詳、75×90cm、北大文学研究科所蔵)

2014年秋に文学研究科芸術学講座主催で開催した『美術の北大』展に一点だけ額装されていないものがあった。池田芳郎の《校庭》と題された作品で、仕方なくイーゼルに立てかけて展示したが、白い雲を浮かべる空、まだ雪の残る遠山、一続きの塊となっている並木、緑が萌え始めた農地、そしてそこを流れる冷たい川水とこれから命を取り戻す三本の木など、絵をくすませている汚れを取り除いたら、そこにはきっと透明感のある色彩が出現するであろうことが容易に想像された。

展覧会終了後、池田 芳郎のお孫さんの岸智子・南山大学経済学部教授より、長く神奈川県藤沢市のご自宅に飾ってあった《冬の第二農場》と題した作品の寄贈申し出があった。この作品も痛みがひどかったが、しっかりと洗浄して埃をぬぐい去り、至る所に発生していたカビを除去、修復した結果、見事に清澄な色彩がよみがえった。とりわけ画面上部の明るい空は池田に特徴的な青色で、川水の濁った紺色と対比的である。そうした寒色系の色彩による冬景色でありながら、画面に温もりが感じられるのは、まず大変柔らかな筆づかいによって滑らかな曲面が作り出され、家屋も雪原も全体に丸みを帯びた形態となっていること、また建物の煉瓦色や水平線上の樹影を照らす黄色から赤褐色へのグラデーション、雪の野原の所々にアクセントのように生えている草の黄緑色などの暖色が効果的に用いられているからだろう。また画面中央を大きく蛇行して流れる川はゆったりとした動きをもたらし、その曲線と呼応するように画面右側には黒い柵がS字状にくっきりと描かれ、画面を引き締めている。「Y. IKEDA.」のサインはあるが、制作年の表記はない。

池田 芳郎は1895年北海道七飯町生まれ。函館中学、一高を経て、東京帝国大学理学部物理学科卒業。1920年九州帝国大学工学部物理学教室に講師として着任し、1922年から2年間ヨーロッパに物理学研究のため留学した頃から絵画制作を始める。帰国後まもなく、北海道帝国大学工学部理学第一研究室に助教授として着任。1930年、北大に理学部が設置されると、工学部兼任のまま理学部物理学科理論物理学第一講座で応用数学関係の講義を担当する。北海道大学名誉教授。北大時代は黒百合会にも熱心に出品していた。私たちの調査でも工学部などに多くの作品が残されていることが判明している。ただ残念なことに《校庭》だけは、現在でも本部地下の文書保管庫で埃にまみれて眠ったままである。