2026年7月18日(土)、第37回北大人文学カフェが開催されました。今回は“「お静かに!」の誕生 ― ミュージアムの沈黙と対話をめぐって ―”と題して、話し手の今村信隆教授(芸術学研究室)に、「ミュージアムにおける沈黙と対話」についてお話しいただきました。お話の後は参加者の皆さんと質疑応答を通して交流しました。当日は、約90名の方にご来場いただき、事後視聴は285回視聴いただきました。
第1部は、今村先生のトークの時間です。
現在の美術館では「静かに鑑賞する」ことが当たり前とされていますが、美術鑑賞における「静けさ」は最初からあったわけではなく、江戸時代から明治初期にかけては、作品鑑賞の場でお酒を飲んだり、大声で批評し合ったり、飲食や雑談をすることさえあったことが紹介されました。
時代が進み、明治期の博覧会では、様々な階層の人々が同じ空間に混ざり合っていました。その際、大声を出すことや身なり、作品の表面的な美しさだけを楽しむ俗受けの鑑賞法に対して、「冷ややかな目線=区別・格付け」が生まれ始め、「騒がずに鑑賞すること=教養のある態度」という意識が芽生えていき、次第に「静寂さ」が求められるようになりました。これが「お静かに!」という文化につながっていくと今村先生は説明しました。

明治末期の「文展」など公募展の段階でも、ルール上は静粛が求められていましたが、会場は砂塵が舞い、大声で会話や雑談が交わされる非常に騒々しい場所だったそうです。
昭和初期になると、格式高い会場で価値の定まった「名作」を集めて展示するシステムが確立します。人々は作品に圧倒され「声をのむ」ようになりました。これが現代につながる静寂な鑑賞スタイルの誕生となりました。
まとめとして、公募展や現代アート等の価値が未定の作品は語り合い、賑やかさを誘発する一方で、価値が定まった名作は沈黙を生み出しやすい傾向があります。「語り(対話)」と「沈黙(一人での静かな鑑賞)」のどちらが正当なアプローチなのかを真剣に問いかける存在そのものが、近代以降の「芸術作品」であると今村先生は締めくくりました。
第2部は、参加者の皆さんからいただいた質問に今村先生が回答していく対話コーナーでした。聞き手の岡田さんが、いただいた質問を紹介し、それに今村先生が順に回答していきました。
海外のミュージアムでの鑑賞態度やその歴史について、海外の作品模写と作品受容の違いについて、今後ミュージアムは何を守り、制限していくべきか、写真撮影可能なミュージアムについて、ミュージアム内の作品と関係のない会話について、グループ鑑賞・会話しながらの鑑賞について、対話型鑑賞・参加型鑑賞は望ましいのか、2種類の鑑賞時間(静粛・会話OK)を設けることについて、今村先生にとって美術館の存在とは、今村先生の好きな鑑賞方法、こんな美術館があったらいいなと思う美術館とは、今後の美術館のあり方など多くの質問をいただきました。すべての質問に回答できず申し訳ありませんでした。
参加された方からは、「この研究のきっかけがよく分かり腹落ちしました」「美学史・美術館史なるものの奥深さに触れ関心を持ちました」「大好きなミュージアムに関する興味深い研究成果を聞けた」「過去からの事例を紹介する中で、だからこうすべきだと結論を押し付けなかったのがよかった」「聞き手の学生さんの質問が的確で理解がより深まった」「お静かに、というテーマから、歴史や社会学など様々なテーマに派生していったのが興味深かった」「これから評価が決まるもの(公募展)→評価の定まったもの(名作展)への変化や、建物(会場)の変化という視点になるほど!と思いました」「時代とともに変遷した『人とミュージアムとの関わり方』が面白かったです」「歴史的に『静かに』しない時代があったことには気づかなかったので、その点に気づかされたことはよかった」「私はいろんな鑑賞があってよいと思います。限られた人しかゆるされないミュージアムはさびしいから」「文系研究の意義を知ることができました」等、多くの感想をいただきました。どうもありがとうございました。




