12月4日(木)に文学研究院研究推進委員会主催の若手研究者支援セミナー「一人ひとりのキャリアパス 文系博士、活躍への道」がハイブリッド形式にて開催されました。
本セミナーでは、文系の博士後期課程を修了した4名の話者をお招きし、進路選択の経緯や現在の仕事内容についてお話を伺うことで、若手研究者のみなさんが自分らしいキャリアを考える一助となることを目的に企画しました。
はじめに、研究推進委員会研究支援専門部会長の結城雅樹教授(行動科学研究室)より本セミナーの主旨説明がありました。

1.理系中心の企業研究所で働く文系ドクター
NTT株式会社 社会情報研究所 横山実紀氏
2022年北海道大学文学院博士後期課程修了
横山さんは、大学院で忌避施設の立地に関する合意形成を研究していました。博士後期課程では日本学術振興会特別研究員DC1に採択され、研究の意義を問いながら日々取り組んでいました。博士2年の時に就職活動を開始。コロナ禍で大学への入構にも制限がかかり不安が募る中、Hi-System登録や人材育成本部(現:先端人材育成センター)の相談員との面談が転機となりました。赤い糸会で現在の職場に出会いますが、面接合格後もアカデミアを離れることに迷いがあったそうです。そんな折、採用担当者から電話をもらい入社後に期待されている内容を聞くことができ、社会に近いところで学際的な研究をしたいという気持ちを再認識し入社を決意。現在は Well-being研究に従事し、異なるバックグラウンドを持つメンバーとともに自律的に研究を進めていくことが重要だと感じています。論文執筆に留まらず、研究成果を社会に広める方法を考える、企業ならではの実践にやりがいを感じています。

2.地域博物館で歴史担当学芸員として働く 働く際に気を付けていること
帯広百年記念館 大和田努氏
2016年北海道大学文学研究科博士後期課程修了
大和田さんの専門は日本中世史で、在学中は室町時代の公家の日記や手紙を読んで研究を行っていました。研究と併行して高校の非常勤講師として日本史を教えていましたが、担当コマ数の多さに、研究との両立に苦心したそうです。博士2年目に嘱託職員として帯広百年記念館の学芸調査員となり、博士4年目には同館で正規職員として採用され、働きながら博士論文を執筆しました。学芸員として働くにあたって、非常勤講師経験で身についた人前で話す力、大学院時代に培った史料調査や異分野への関心が役立っていると言います。また、対象とする時代や地域が異なっても日本史のスキルを応用できることや、自治体職員への新人研修、姉妹都市交流、産業振興・交流事業など、日本史学で学んだことを組織の中で活かせる場面があることも実感しているそうです。キャリアを考えるヒントとして、自分と同じ専門分野の人が少ない地域で働くのは、専門を生かしやすい方法であると語りました。

3.アカデミアに残る/残らないを越えて 外国人研究者として選び続けたキャリアの分岐点
北海道大学文学研究院博物館学研究室 卓彦伶講師
2021年北海道大学文学研究科博士後期課程修了
卓先生は、台湾の大学卒業後、出版社勤務を経て2013年に来日しました。留学のきっかけは、出張料理人であった祖父の仕事が地域史として博物館に認められた体験でした。専門は博物館学で、地域連携活動の社会的効果や住民参加を研究しています。大学院では言葉の壁、空気を読むこと、学会でのネットワークづくり、日本の就活文化、ビザの不安などさまざまな困難に直面しながらも、分析力やインタビュー手法を磨きました。将来アカデミアに戻りたいなら、アカデミアに近い仕事を探した方が良いと指導教員からアドバイスを受け、博士修了後はシンクタンクに就職。大学院時代に培った研究能力は、アカデミア外でも評価されることを実感したそうです。その後、北海道大学文学研究院で実施されたプラス・ミュージアム・プログラム(文化庁「令和6年度 大学における文化芸術推進事業」)に従事したのち、現在に至ります。「アカデミアに固執せず、視野を広げることで新たな道が開ける」と語りました。

4.あきらめの境地としがみつく力 研究と育児のあいだで
北海道大学文学研究院心理学研究室 田辺弘子准教授
2016年京都大学人間環境学研究科博士後期課程修了
田辺先生は認知行動科学が専門で、身体の動きと心の関連を研究しています。博士後期課程修了後、東京大学、青山学院大学、名古屋大学を経て北海道大学に着任するまでの、公私にわたる経験を語りました。これまで、将来の見通しが立てづらい不確実な中で意思決定を行わなければならず、自身やパートナーの雇用環境、担当授業、双子の子どもたちの保育園探しや体調不良時の看病、ワンオペ育児期間など、その時々の状況に応じて試行錯誤を重ねてきたと言います。その中で最も難しかったのは焦りや不安のコントロールでしたが、先輩や同僚からのことば、職場環境、学生の協力、パートナーとの連携が支えとなったそうです。手放したものがあると同時に手に入れたものもあるが、手放すことは敗北ではなく資源の再配分。状況を受け入れてやり方を見直せば新たな世界が見えるかもしれないと語ります。セミナー参加者に向けて、「悩んだ時は、“あきらめ”と“しがみつき”の二軸で意思決定を」というメッセージを送りました。

4名の方々のお話に引き続き、文学研究院研究推進室澤田URAから、学内のキャリア支援窓口についての情報提供がありました。
また、学務部キャリア支援課キャリアセンターの中井光野留学生就職コーディネーターから、留学生向けの支援内容の紹介と留学生向けキャリアイベントの告知がありました。
最後に結城研究支援専門部会長より、キャリアを考える上で、分野外の人と関わることの重要性についてお話がありました。そして、今後様々なライフイベントに直面した時、今日のお話が役立つと思いますと締めくくりの言葉をいただきました。

当日は、大学院生を中心に計24名の方にご参加いただきました。アンケート(有効回答18名・回収率75%)の自由記述欄には、「迷いながら、キャリアの選択をし、現在に至るという話がとてもリアルに感じられました」、「どのような道を選ぶことになっても、頑張れる勇気をもらえました」、「自分の人生にとって何が重要なのか、その取捨選択も判断していかなければならないことを考えさせられました」、「どの方も、迷われながらもご自身らしいキャリアを歩まれていることが印象的でした」等のコメントが寄せられました。