書香の森の企画展示を更新しました。今回は、写真家・佐藤祐治の関連写真から大きく3つの作品シリーズを紹介します。企画は、芸術学研究室の浅沼敬子教授です。
「新・植物図鑑」シリーズ -写真家・佐藤祐治の植物写真-
戦後日本を代表する写真家のひとり中平卓馬は、そのよく知られたエッセイ「なぜ、植物図鑑か」(1973年)で自己表現としての芸術・写真からの決別をうたった。人間中心主義への決別にも読める中原の議論で、「植物」は特異な位置を占めている。中平によれば動物ほど人間に近似しておらず、鉱物ほど人間から乖離していない「植物」は、非人間世界と人間世界との仲介的存在として人間の主観を相対化し得る。本展示のタイトルは、こうして人間と非人間の中間的存在として植物を位置づけ、自らの写真実践の指針とした中平のエッセイに由来する。
映像の性質を写真によって問いなおす概念的活動を行っていた佐藤が土地にカメラを向けたのは2013年、
真駒内・桜山の歴史に取材した写真シリーズ「光景」の頃だという(このとき佐藤は白旗山を舞台とした「色景」も制作している)。2015年には、北海道の龍神信仰にまつわる場所を撮影した「水が立つ」シリーズで、自らもその末裔である和人入植者の痕跡にカメラを向ける。その後入植由来の地名の残る場所を訪れ撮影を繰り返すなかで佐藤が着目するようになったのが、同地に生息する植物だった。北海道の土地に帰化した外来の植物たち――佐藤は植物の名づけや由来、来歴を調べるなかで、その歴史が人間の歴史と交差し、重複し、また類似していることに思いいたる。同時に佐藤は、植物の命名および移動に潜む近代の諸問題にも目を向けた。こうして撮られた佐藤の植物写真は、北海道の植生の人文学的検証ともいい得る性質を帯びていく。
本展示では、佐藤の植物関連写真から大きく3つの作品シリーズを紹介する。第1期(6月15日-8月28日)は、佐藤の住む札幌真駒内の風景写真である。真駒内の植生を撮った何気ない風景だが、光景を大きく占めるのはいずれも外来の植物であり、真駒内種畜場を起源に持つ真駒内の歴史を連想させる(ただし、誰がいつどの植物を持ち込んだのか確定しにくいこともあり、植生と人間の移動とが直接結びつくわけではないことも強く付言しておく)。第2期(9月14日-11月27日)は、佐藤が長く撮影してきた、北海道各地の和人入植地における植生の写真を扱う。第3期(12月14日-2月26日)は、現在佐藤が関わっている岩見沢市志文の辻村農園に残る植物の記録を扱う。北海道への入植者がどのような植物をどのような意図で持ち込み、
どのように記録したのかを、写真およびテクスト資料によってたどる予定である。
第1期となる本展の中心は、壁面に並ぶ4点の真駒内の風景写真、展示ケース内に展示された植物のフォトグラム作品である(いずれもシリーズの一部抜粋である)。佐藤は植物を含む「風景」を撮影するだけでなく、植物を採取してフォトグラムという原始的写真撮影法を用いて記録も行ってきた。佐藤の実践で写真というメディウムは、人間と人間をとり巻く環境の来歴に対する「脱」人間的思索の手段として機能しているようにも見える。 (文・浅沼敬子)
展示会期
- 2026年6月15日〜2027年2月26日
第1期(6月15日-8月28日) 第2期(9月14日-11月27日) 第3期(12月14日-2月26日)
展示会場
- 文学研究院 玄関ホール横 書香の森展示スペース
企画展示関係者
- 企画: 浅沼 敬子(芸術学研究室)
- 展示協力: 今村 信隆(芸術学研究室)
- 協力: 書香の森ワーキンググループ(河原 純一郎[心理学研究室]、今村 信隆[芸術学研究室]、橋本 雄一[地域科学研究室])、久井 貴世[博物館学研究室]、寺田千里[地域科学研究室])
お問い合わせ
- asa@let.hokudai.ac.jp
