蓑島 栄紀

プロフィール

蓑島 栄紀 准教授 / MINOSHIMA Hideki
研究内容

前近代(とくに古代・中世)のアイヌ史および北東アジア諸民族の歴史。
東アジア・東部ユーラシアとの交流を通してみた日本古代史、とくに北方史。
「先住民族史」としてのアイヌ史の構想へ向けた取り組み。

研究分野
アイヌ史、北東アジア史、日本古代史
キーワード
アイヌ、エミシ、エゾ、北東アジア、交易
文学院 担当専攻/講座/研究室
人文学専攻/アイヌ・先住民学講座/アイヌ・先住民学研究室
連絡先

研究室: アイヌ・先住民研究センター2F 第4研究室
TEL: 011-706-2859(代表)
FAX: 011-706-2859(代表)

研究生を希望される外国人留学生(日本在住者をふくむ)は、「研究生出願要項【外国人留学生】」に従って、定められた期間に応募してください。教員に直接メールを送信しても返信はありません。
関連リンク

Lab.letters

Lab.letters 研究室からのメッセージ
アイヌ・先住民学研究室蓑島 栄紀 准教授

歴史の正しさに一石を投じる
当事者目線のアイヌ史を構想

私の研究の基盤は、文献史料にもとづく古代史研究です。研究フィールドである日本列島の南縁(奄美・沖縄)と北縁(東北・北海道)が倭国・日本や東アジア諸地域とどのような交流を持っていたかを、考古学などの隣接分野にも学びつつ追究し、北海道産のワシ羽や毛皮類などの交易品から人々の足跡を読み取ってきました。

近年は、アイヌ史を研究の新たな柱としています。一般に日本史では、本州が鎌倉時代に突入した13世紀頃に、北海道で「アイヌ文化期」が始まったとされていますが、これではアイヌの歴史と文化の有する長期的な過程がみえないのではないかという懸念が拭えません。日本史の枠組みでアイヌを語るのではなく、もっと幅広い時空でアイヌを主人公にしたアイヌ史を構想したいと考えています。

考古学の調査現場にも積極的に足を運び、多くを学ぶ。画像は2007年に厚真町で発見された15世紀の丸木舟保存作業。
考古学の調査現場にも積極的に足を運び、多くを学ぶ。画像は2007年に厚真町で発見された15世紀の丸木舟保存作業。
画像右は奄美大島、赤木名の「グスク」(城、砦、聖域)の壕。画像左の厚真町桜丘で見つかったアイヌの「チャシ」の壕と比較すると、歴史や文化の共通性と独自性がみえてくる。

最前線の研究環境で
基本的な研究手法を大切に

北海道大学アイヌ・先住民研究センターは文字通り、アイヌと先住民研究のさまざまな分野の専門家が集まる刺激的な空間であり、当事者であるアイヌ民族・先住民族のスタッフと、和人・民族的マジョリティのスタッフとが協同して、異分野間の情報交換が活発です。また、当事者の意見や思いに接したり、当事者が直面している問題を目の当たりにする機会も多く、歴史が現在と地続きのものであると再認識することができます。

こうした学際的な環境だからこそ、皆さんには自分の中で基盤となる基本的な研究手法――文献や史料の森に分け入り、試行錯誤しながら事実に基づいて自説を「実証」する――をしっかりと身につけてほしいと思います。研究で壁に突き当たった時も、多くの場合、基本に立ち返ることが乗り越えるヒントを見つける近道になります。

(聞き手・構成 佐藤優子)

メッセージ

歴史学の基本は、史料・資料の厳密な検討にもとづく「実証」です。しかし、そのようにして得られた「史実」は、決して絶対のものではありません。どのような「史実」も、新たな研究や、新出の史料・資料によって覆されうる「反証可能性」を有しています。

また「史実」は、これとは別の側面からの挑戦も受けています。保苅実氏は、『ラディカル・オーラル・ヒストリー オーストラリア先住民アボリジニの歴史実践』のなかで、オーストラリア先住民の長老が説明する、一見、「史実」とはかけ離れた過去の出来事や、事物の由来に、注意深く耳を傾けます。そのうえで保苅氏は、こうした「歴史」が、先住民の身体や大地と深く結びついていることに気づきます。そして、この、生きられた現実としての「歴史」が、実証的歴史学と対等のもう一つの「歴史」であることを強調するのです。

ですが、このことは、実証にもとづく「史実」が軽んじられてよいということを意味しません。「史実」は、保苅氏が出会った濃密な「現実」を前にしたとき、はじめてその特権的な地位を疑われたのです。逆説的に言えば、実証に裏づけられた「史実」はそれだけ強靭であることも、また明らかなのです。

「アイヌ史」、「先住民族史」は、まだ新しい研究領域ではありますが、現実世界との密接なかかわりを通して、既存の歴史学を揺さぶり、更新する糸口となる可能性を秘めています。「実証」をよりどころとしつつも、多様な視座や方法の可能性に開かれてありたいと考えています。

研究活動

略歴

1972年横浜市生まれ。神奈川県立舞岡高等学校卒業。國學院大學文学部史学科卒業。國學院大學文学研究科博士後期課程日本史学専攻修了。博士(歴史学)取得。苫小牧駒澤大学国際文化学部への勤務をへて、2014年4月より現職。

主要業績

  • (論文)「古代北方交流史における秋田城の機能と意義の再検討」(『国立歴史民俗博物館研究報告』232、113-145頁、2022年3月)
  • (論文)「【研究動向】アイヌ史研究の現在―交流史といくつかの論点―」(『歴史学研究』1013、18-27頁・57頁、2021年8月)
  • (論文)「「刀伊襲来」事件と東アジア」(『金・女真の歴史とユーラシア東方(アジア遊学233)』勉誠出版、47-53頁、2019年5月)
  • (論文)「9~11・12世紀における北方世界の交流」(『古代東ユーラシア研究センター年報』5、121-152頁、2019年3月)
  • (論文)「七世紀の倭・日本における「粛慎」認識とその背景」(小口雅史編『古代国家と北方世界』同成社、62-95頁、2017年10月)
  • (単著書)『「もの」と交易の古代北方史―奈良・平安日本と北海道・アイヌ―』(勉誠出版、1-363頁、2015年11月)
  • (論文)「古代北海道地域論」(李成市編『岩波講座日本歴史 第20巻 地域論(テーマ巻1)』岩波書店、9-34頁、2014年10月)
  • (編著書)『アイヌ史を問いなおす―生態・交流・文化継承(『アジア遊学』139)』(勉誠出版、2011年3月)
  • (論文)「北方社会の史的展開と王権・国家」(『歴史学研究』872、38-48頁、2010年10月)
  • (単著書)『古代国家と北方社会』(吉川弘文館、1-348頁、2001年12月)

所属学会

  • 国史学会
  • 北大史学会
  • 北海道・東北史研究会
  • 北海道考古学会

教育活動

授業担当(文学院)

  • アイヌ・先住民学特殊講義
  • アイヌ・先住民学総合特殊講義
  • アイヌ・先住民学特別演習
  • アイヌ・先住民学海外特別演習

おすすめの本

  • リチャード・アダムス『ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち』
    故郷を襲う危機を察知し、新天地を求めて旅する野うさぎの群れを描いた児童文学作品です。語り部うさぎによる口頭伝承が現実と交錯し、生き抜くための力となっていく手際は見事です。