プロフィール
- 研究内容
戦後日本の映画やその周辺領域における恐怖と身体の表象、および個人とシステムとの関係の表象をめぐる研究。
Lab.letters
霊の表現を発展させてきた
「Jホラー」恐怖の思考
現代日本のホラー映画が描いてきた「何か霊のようなものが写ってしまった」あるいは「いないはずのものがそこにいるかもしれない」という恐怖は、観客である私たちの預かり知らないところで息づいている「他者」の存在を実感させ、ひいてはそれを写している映像媒体そのものが怖くなるという二重の恐怖に観客を陥れます。
こうした「Jホラー」独自の恐怖の思考の実践者である黒沢清研究を踏まえ、現在はそこから発展した戦後日本映画分析に取り組もうとしています。川島雄三監督作品を出発点に、「システムや共同体の中で個人が抱えるどうしようもない無力さと生」という大きな視野で、戦後日本映画を捉え直してみたいと考えています。
作品×□□□の掛け合わせで
学術的な考察に変容
映像・映画やポップカルチャーの感想や印象は誰もが自由に言うことができますが、そこから学術的な思考を取り入れた考察へと変容させていく鍵は、「対象作品を何と関わらせていくか」という視点を持つこと。「何」にあたるものは、歴史や哲学など皆さんの関心次第です。その選択肢を広げるためにも日頃からいろんなものに触れることが大切です。
映像分野の研究は対象を「そのまま見る」ことが基盤となります。行間を読んだり、そこにない解釈を加えたりせずに、まずは写っているものをそのまま受け取る。容易なことではありませんが、そこの出発点に立てるよう、私も皆さんと「一緒にやっていく」というのが今は最も有効な方法だと感じています。
(聞き手・構成 佐藤優子)
メッセージ
私は映画の研究をしていますが、いつまでたっても映画のことが全然わかりません。作品を見れば見るほど、そしていろいろなことを勉強すればするほど、研究対象のことがさっぱりわからなくなります。いつもです。つらいです。しかし、思考はその地点からしか始まらないとも思っています。そして、その謎に適切な言葉を与えることができたと実感できたとき、それ以上ないほどの充実感と喜びが訪れることも知っています。
大学や大学院では、ぜひこの「わからない」の世界に巻き込まれてほしいと思います。とくに「映像」や「現代文化」は、私たちにとって身近で、「なんとなくよく知っている」ように見えるものです。だからこそ、その「なんとなく」をいったん解体することが出発点になります。「わからない」ことは楽しいです(ついさっき「つらい」と言ったばかりですが)。それは、身近なものに他者として出会いなおすことであり、そのことによって自分自身をよくわからなくすることでもあります。自分を複雑にして、まずは何だかよくわからない人になりましょう。それは苦しく、同時に楽しいことです。そしてそのような時間を生き抜くことこそが、学問の醍醐味であるはずなのです。
研究活動
略歴
北海道大学大学院文学研究科博士課程単位修得退学、博士(文学)。日本学術振興会特別研究員PD、北海道大学大学院文学研究科助教、日本女子大学准教授などを経て、2024年より現職。
主要業績
- 単著『黒沢清と〈断続〉の映画』(水声社、2014年)
- 共編著『川島雄三は二度生まれる』(水声社、2018年)
- 分担執筆『渋谷実 巨匠にして異端』(水声社、2020年)
- 分担執筆『リメイク映画の創造力』(水声社、2017年)
- 分担執筆『映画と文学 交響する想像力』(森話社、2016年)
所属学会
- 日本映像学会
- 表象文化論学会
- 北海道大学国語国文学会
教育活動
授業担当(文学部)
- 映像表象文化論演習
- 映像表象文化論
授業担当(文学院)
- 現代表象文化論特殊講義
- 現代表象文化論特別演習
授業担当(全学教育)
- 芸術と文学
おすすめの本
- ロラン・バルト『明るい部屋』(みすず書房)
写真論の名著です。写真や映像についての汲めども尽きぬ洞察があるのはもちろんですが、美しく刺激的な文言と魅惑的な謎に満ちており、しかもちょっと泣ける。何度読み直しても陶然とします。